ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール第5日目・午後

第一次予選最終日の午後も、なかなか面白い演奏が登場!すでに結果は発表されたので順番が前後してしまったが、ここに最終グループの模様をお届けしたい。

アンドリュー・タイソン(Andrew Tyson)は、ノクターンop.62-2の冒頭からまるでジャズのような自由なスウィング感で始まる。エチュードop.25-6はアーティキュレーションに多彩な変化をつけてコミカルな曲想に仕上げる。スケルツォ4番op.54はテンポやアーティキュレーションに様々な味付けを加え、即興的な遊び心に溢れていた。テーマの最後の変奏などはヴィヴラフォンのような音で、その残響が耳と心に残る。ショパンを現代風にアレンジしたような印象。聴衆に大人気!(使用ピアノ:スタインウェイ)

デニス・ジュダノフ(Denis Zhdanov)はノクターンop.48-1はやや音が整理されておらず、エチュードop.10-1もやや荒削りではあったが、特に中間部は様々な表情をつける。それはエチュードop.25-10、バラード4番op.52に引き継がれ、特に後者はドラマに満ちた展開であった。(使用ピアノ:カワイ)

グラシャン・シムチャク(Gracjan Szymczak)はあえて特別なことはしないが、素朴さと伸びやかさがノクターンop.62-1などに出ている。エチュードop.25-5はいかにもleggieroで始まり、中間部はねっとり歌う。スケルツォ2番op.31も素直に大らかに仕上げる。地元ポーランド出身で一次予選最終演奏者の彼に、大きな拍手が贈られた。(使用ピアノ:スタインウェイ)

ナタリア・ソコロフスカヤ(Natalia Sokolovskaya)はノクターンop.9-3は左右の音量配分が難しかったか。エチュードop.25-10は美しい中間部に魅せられるが後半はやや音が明瞭さを欠いた。スケルツォ4番op.54では途中でソプラノが消えてしまう箇所があったが、繊細な歌心があり所々にセンスが光る。(使用ピアノ:スタインウェイ)

岡田奏さんはノクターンop.27-1を内省的で深みある音で始まり、ソプラノも美しく響いてくる。中間部にもう少しアジタートの表情が出るとさらに魅力的になると思われた。エチュードop.25-6、25-11はやや緊張したが、力強いタッチでまとめる。バラード4番op.52は全体的に繊細で抑制された表現の演奏だった。(使用ピアノ:カワイ)

香港のメン=シェン・シェン(Meng-Sheng Shen)は、ノクターンop.48-1は卒なくまとめるが、所々音楽を大きく捉えようとする心意気を感じる。無難にまとめたエチュードop.10-10、op.10-5に続き、スケルツォ2番op.31は序奏のバス音が次第に深く大きく奏され、物語の大きさを想像させる。要所でのミスは惜しいが、構築力を感じさせる演奏だった。(使用ピアノ:スタインウェイ)

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日本から見学にいらした杉本安子先生と中西利果子先生。アンドリュー・タイソンの演奏後、「彼はとても面白かったわ!」と話しておられた。偶然にも"ショパンとジャズ"のポスター前にて。