ショパン国際コンクール第5日目・午前
本日は第一次予選最終日。この日もなかなか好演奏が飛び出した。
国際コンクール上位入賞常連のフランス出身フランソワ・デュモン(François Dumont)は色彩感にあふれ、情景が見えるような演奏。ノクターンop.48-1のコラールの旋律は、早朝のシンと引き締った空気の中で、次第に夜が明けて万物が色づいてくるような雰囲気が、モネの「印象、日の出」を連想させる。エチュードop.10-10は細かく表情をつけ、op.25-11は間も効果的に生かして劇的に。スケルツォ3番op.39は何かの前触れのように始まり、常に次の展開を予兆させるような気配を作りながら音楽を進める。全体的に洗練された演奏だった。(使用ピアノ:ファツィオリ)
中国のシャン・トン(Xin Tong)も創造力を感じさせる演奏。スケルツォ第2番op.31は綺麗に放たれる音の響きによって、音空間の広がりを感じさせる。トリオでは幻想的な霧の中からメロディが立ちあわれ、次第に激しさを帯びる運びが印象的。また流れを分断する休符効果も十分に意識する。ノクターンop.37-2の選曲は今回彼1人。叙情性や色彩感を十分に生かし印象づける。エチュードop.25-6、そしてop.10-5で軽快にプログラムを締めくくった。(使用ピアノ:スタインウェイ)
インゴルフ・ヴンダー(Ingolf Wunder)はバラード4番op.52から。弱音ペダルを多用して陰影をつける。エチュードop.10-5は軽快にパリっと引き締った輪郭を感じさせる。op.25-6は疾走感がありやや雑になったか。ノクターンop.9-3はフレージングに独特の個性を感じさせる。最後は静けさの中で祈るように終わった。よく練られた演奏に、会場から大きな拍手が贈られた。(使用ピアノ:スタインウェイ)
ロシア/リトアニア出身のルーカス・ジェヌーシャス(Lukas Geniušas)は、対比の美しさで聞かせる。エチュードop.25-7は左手のメロディと右手のソプラノの対比が美しい。エチュードop.25-11の重量感ある表現に対してop.10-2をいとも軽やかに弾き、対照性を強調する。バラード1番op.23はさっと流す箇所とじっくり歌う箇所をうまく配分し、全体として均質ではなく、動きと陰影のある演奏に仕上げた。(使用ピアノ:スタインウェイ)
自然な歌心を感じさせたのは、イタリアのジュゼッペ・グレコ(Giuseppe Greco)と、ポーランド出身のマレク・ブラハ(Marek Bracha)。二人とも目立つ特徴を前面に出す演奏ではないが、特にグレコは品のある歌い方が印象的。二人ともミスタッチが惜しい。グレコはノクターンop.27-2、エチュードop.10-5、op.10-10、幻想曲。ブラハはノクターンop.27-2、エチュードop.10-4、op.25-5、バラード1番op.23を演奏。(使用ピアノ:スタインウェイ)
木米真理恵さんは情熱的なノクターンop.62-2から。エチュードop.25-5、op.10-1やや緊張したようだが、バラード4番op.52は序奏から落ち着きを見せ、パッセージも鮮やかに全体的に美しくまとめた。ポーランドの聴衆から人気があり、終演後も子供たちからサインを頼まれていた。(使用ピアノ:ヤマハ)
香港のハンチェン・リー(Hanchien Lee)は怜悧な演奏。ノクターンop.62-1は一見淡白な感じでさらりと始まるが、後半の長いパッセージに全てを語らせるかのようにじっくり歌い上げる。スケルツォ3番op.39も同様の展開。音質や音量が均質になりソプラノが目立たない箇所や、ミスタッチなどが惜しい。他にエチュードop.10-5、op.25-6。(使用ピアノ:スタインウェイ)
さて、いよいよ本日7日現地時間午後9時半頃(日本時間8日午前4時半ごろ)に、第一次予選結果が発表される。当ホームページでも速報予定!