ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール第4日目・午前

ショパン国際コンクール4日目。ワルシャワは本日も晴天!会場も聴衆が増え、ほとんど空席がなくなってきた。本日を含めて60名のピアニストを聞いたが、今日もまた驚くべき演奏が登場した。まず午前の部から。


今回は個性的なピアニストが多い中、正統派のピアニストが登場した。米国のエリック・ズベー(Eric Zuber)は磨かれた質の良い音で、安定かつ美麗なショパンを演奏する。エチュードop.10-1は深い良質な音でダイナミックに、op.25-6も卒がない。ノクターンop.27-2は特別なことをしなくても、楽譜に忠実に、深く美しく響く音で弾くと魅力的な演奏に仕上がる、という良い例だろう。スケルツォ2番op.31も安心して聞いていられる。中間部も美しく、多少和音などが乱れた箇所があったが、全体は美しく完成されている。(使用ピアノ:スタインウェイ) 

「自分の言いたいことが伝わるか心配でしたが、今日は楽しんで演奏することができました。聴衆の皆さんも一人一人のアーティストを尊重してくれていると思います」。写真:エリック・ズベーさんと、スタインウェイ社のゲリー氏。

同じくロシアのユーリ・シャドリン(Yury Shadrin)は、自前の?小さい背付イスを使用。エチュードop.10-3から始まる。別れの曲といっても悲哀の色はなく、左手のスタッカートを強調したりとアーティキュレーションに変化を加えたり、中間部もダイナミックな印象。エチュードop.10-7はテンポを緩めて細かいディナーミクを付けてうねりを強調する。op.25-11はバリッと弾き、続く舟歌もそのままダイナミックに始まる。次のテーマに移る前や間奏に特別な音を配して何かを予兆させる。(使用ピアノ:スタインウェイ)写真© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina

一方、宮崎翔太さんはエチュードから。op.25-11、op.10-11は緊張したためかミスタッチや音の抜けが実に惜しい。しかし溢れる叙情性はノクターンop.27-2、幻想曲に発揮される。幻想曲は冒頭から神秘に満ち、歌心に満ちた中間部からテーマ再現部に入る一音は、長い沈黙を一瞬で破るような衝撃がある。最後までそのテンションが持続し、緊張感を孕んだドラマティックなコーダで締めくくられた。演奏には独特の華を感じさせる。(使用ピアノ:カワイ) photo© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina

中国のジュリアン・ズィチャオ・ジア(Julian Zhi Chao Jia)も面白いピアニスト。肩に力が入っているのか音はあまり深くないが、個性的な解釈で意外性がある。ノクターンop.9-3ではルバートの必然性に?の箇所もあったが、エチュードop.10-4は独特のフレージング、またop.10-2は内声を強調、スケルツォ4番op.54は多彩な音を配してテーマの変奏を印象づけ、正統派とは正反対ながら、最後まで飽きさせない演奏だった。(使用ピアノ:スタインウェイ)photo© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina

ロシアのデニス・エヴツヒン(Denis Evstuhin)のエチュードop.25-10はロシア風の濃厚な味付け、op.25-11では、中低音域の迫力ある音がダイナミズムを生む。エチュードop.25-7やスケルツォ1番op.20は朗々と高らかに歌い上げるが、少し古風にも感じた。(使用ピアノ:スタインウェイ)

韓国のスン・ジェ・キム(Sung-Jae Kim)は慎重で内省的である。ノクターンop.27-2の沈思黙考した空気、バラード1番op.23も静かな序奏から呈示部へ、その空気がおよそ全体を支配していた。(使用ピアノ:ヤマハ)

グルジアのマミコン・ナカペトフ(Mamikon Nakhapetov)は自然な音楽の運びではあるが、エチュードop.25-7では突如濃厚な表現が混じったり、エチュードop.10-10では和音などが全て均質に聞こえて旋律が目立たない箇所など、あまり整理されていない内容ではあった。ほかにエチュードop.10-4、バラード3番op.47を演奏。(使用ピアノ:スタインウェイ)

アルメニアのルシーン・ハチャトリアン(Lusine Khachatryan)は自然な歌心を持っている。バラード1番op.23では最後疲れたのかミスが惜しかった。(使用ピアノ:スタインウェイ)

實川風さんの恩師・山田千代子先生。2階から演奏をじっと見守り、演奏後はほっとした表情に。