ショパン国際コンクール第3日目・午後
3日後半の模様から。
ロシアのニコライ・コジャイノフ(Nicolay Khozyainov)も、洗練された構築力を示した。高音まで深い響きの良い音が出て、ノクターンop.9-3に奥行きを出す。多層な音を駆使して、細部まで丁寧に描いていく。エチュードop.10-1は迫力ある大音響で雄大に、続くop.10-2は弱音の中にも音が何階層もあり、それが調性の変化に伴い微細なニュアンスを与えていた。幻想曲は葬送行進曲のような厳粛さを持って始まり、その後も意外性は特にないものの、知的に洗練された演奏。会場からは大きな拍手が贈られた。(使用ピアノ:ヤマハ) 写真© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina
同じくロシアのユーリ・シャドリン(Yury Shadrin)は、自前の?小さい背付イスを使用。エチュードop.10-3から始まる。別れの曲といっても悲哀の色はなく、左手のスタッカートを強調したりとアーティキュレーションに変化を加えたり、中間部もダイナミックな印象。エチュードop.10-7はテンポを緩めて細かいディナーミクを付けてうねりを強調する。op.25-11はバリッと弾き、続く舟歌もそのままダイナミックに始まる。次のテーマに移る前や間奏に特別な音を配して何かを予兆させる。(使用ピアノ:スタインウェイ)写真© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina
スイス出身のルイス・シュヴィゲベル=ワン(Louis Schwizgebel-Wang)も、ユニークな音楽作りをする。エチュードop.10-4はコーダ前の表現に一ひねり加える。op.25-10はオクターブのユニゾンが静かに始まり、ひたひたと長いクレシェンドでfffのカデンツに持ち込む。美しい中間部はフェルマータを極端に長く伸ばして、独特の間を作って音楽を膨らませる。エチュードop.25-7でも、やはり間を効果的に生かしていた。(使用ピアノ:スタインウェイ) 写真© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina
現在イタリア留学中の渡辺友理さんは、「こんな大きなステージで弾くのは初めて」とは思えぬほど堂々としたステージ。ノクターンop.55-2は自信たっぷりとゆったりとした呼吸で大きく音楽を捉える。スケルツォ3番op.39は、激しさ、優しさ、荘厳さ、敬虔さなど音色を変化させて様々な表情を引き出す。聴衆からブラボーも出た。(使用ピアノ:ファツィオリ)
「ここで弾けて本当に嬉しいです。ショパンを毎日聴いているポーランドの方々の前で演奏するのは難しいことだと思っています。イタリアでは、ショパンは上品さを出すことを先生方は重視されているので、それを心がけました」。
イタリア出身のイレーヌ・ヴェネツィアーノ(Irene Veneziano)は、女性らしい柔らかい語り口。スケルツォ2番op.31は半音階のパッセージなどが美しく、中間部もしなやかに歌いあげる。テクニックがやや不足しているため要所要所でのインパクトを持たせたストーリー展開は難しいが、艶やかさがある。エチュードop.25-5はテンポを緩めて揺らすが、あまり過ぎるとエチュード課題の意味が薄れてしまうのでは。しかし全体的に表現意欲は伝わってきた。(使用ピアノ:ファツィオリ)
ジャイ―・スン(Jiayi Sun)は音に精気があり、押しの強い音楽。スケルツォ2番op.31は、ここぞという時のミスタッチが惜しいが、テーマの変奏は全て表情を変えて工夫が見られた。(使用ピアノ:スタインウェイ)
ハナ・スン(Hannah Sun)の舟歌は冒頭から威勢がよく、あまり特徴はないが好感が持てる演奏。エチュードop.10-1は練習曲、のように聞こえた。もう少し踏み込んだ表現が期待される。(使用ピアノ:スタインウェイ)
ボー・フーは、ノクターンop.62-1で虚飾がなくさらりとした表現をする。スケルツォ2番op.31は突風のように疾走する印象。肝心のところでミスタッチがあり残念。(使用ピアノ:スタインウェイ)