ショパン国際コンクール第2日目・午前
コンクール2日目午前は、アジア、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアなど、様々な大陸からやってきたピアニストが揃った。会場には日本からも多くの見学者が駆けつけ、5年に一度のステージを見守っている。さて、今日の様子は・・・?
10.00 - Shih-Wei Huang (Chinese Taipei)
Fryderyk Chopin - Etude A minor op. 25 nr 11
Fryderyk Chopin - Etude E minor op. 25 nr 5
Fryderyk Chopin - Nocturne C minor op. 48 nr 1
Fryderyk Chopin - Ballade G minor op. 23
Piano: Steinway
バラード1番は慎重に音を配分しながら始まった。左手がよく意識されて、内声にもエネルギーがこもるが、右手の説得力がもう一つ欲しい。しかし間の取り方は絶妙で、それが蓄積されたエネルギーとなって次のフレーズへと向かわせる。ノクターンでもやはりディナーミクの幅が狭い分、フレージングに配慮しながら音楽を進める。エチュードop.25-5は左手に歌心を感じた。
10.30 - Hélène Tysman (France)
Fryderyk Chopin - Etude C major op. 10 nr 1
Fryderyk Chopin - Etude A minor op. 10 nr 2
Fryderyk Chopin - Nocturne B major op. 9 nr 3
Fryderyk Chopin - Ballade G minor op. 23
Piano: Yamaha
バラード1番は、たっぷりとした濃密な序奏から始まる。第1テーマは慈しみ、第2テーマは優雅さを持って呈示され、展開部において一気に華やかに展開された。上澄みのような音は気品を感じさせる。op.10-2は意外な箇所で左が強調されたが、これは中間部の左手の旋律の伏線なのだろうか。バラード1番でもやはり同じように意図した箇所があったが効果はいかに。ノクターンはジャスミンのように控えめな芳香を放つ印象。
11.00 - Anna Fedorova (Ukraine)
Fryderyk Chopin - Etude A minor op. 25 nr 11
Fryderyk Chopin - Etude B minor op. 25 nr 10
Fryderyk Chopin - Nocturne B major op. 9 nr 3
Fryderyk Chopin - Ballade F minor op. 52
小柄ながら、音に芯と華やかさがある。エチュードop.25-11, 10ともに、思い切った動と静の描き分けが潔く美しい。op.25-10ではオクターブユニゾンの中にも内声がきちんと聞こえ、中間部の最高音へ至るフレーズも印象的。バラード4番は第1テーマは辺りを伺うようにためらいがちに呈示され、次の展開を期待させる。再現部の第1テーマは、新たな対話が始まるような表現。一つ一つの要素が次の要素の前置きとなり、全てが有機的に繋がった説得力ある演奏だった。
演奏後、楽屋でキャッチ。「このコンクールには6年前から出たいと思っていました。このステージで弾けて本当に嬉しく光栄です。ホール、聴衆、ピアノ・・全てにインスピレーションを受けます」というフェドロヴァさん。とても小柄です!
11.30 - Leonora Armellini (Italy)
Fryderyk Chopin - Etude C-sharp minor op. 10 nr 4
Fryderyk Chopin - Etude E-flat major op. 10 nr 11
Fryderyk Chopin - Nocturne C-sharp minor op. 27 nr 1
Fryderyk Chopin - Scherzo E major op. 54
Piano: Kawai
エチュードop.10-11は内声の柔らかい和音にソプラノが美しく旋律を描く。op.10-4は滑らかなパッセージに、スタッカート付の和音が左右交互に現れるのを軽快に表現。ノクターンはややシンプルな歌い口だったが、スケルツォ第4番はテーマが変奏される度に、時に煌びやかに、時に問答するように、時にロマンティックに、様々な表情の違いを試みている。全体的に表情豊かな演奏が印象的。
12.30 - Airi Katada (Japan)
Fryderyk Chopin - Etude G-flat major op. 10 nr 5
Fryderyk Chopin - Etude G-sharp minor op. 25 nr 6
Fryderyk Chopin - Etude C-sharp minor op. 25 nr 7
Fryderyk Chopin - Fantasy F minor op. 49
Piano: Kawai
日本の片田愛理さん。エチュードop.25-6は静けさの中で始まり、中間部にドラマを持たせる。エチュードの技術的要素を満たしながら、音楽が求める表現世界を追求している。ノクターンは右手の薄氷を踏むような慎重さに、情感のこもった左手の歌が印象的。幻想曲は厳かに序奏が始まり、序奏後半の深い低音から最高音、そしてまた最低音を注意深く出し、アジタートへの流れを印象付ける。荘厳なコラールのようなlento sostenutoが、曲全体の空気を支配していた。
13.00 - Aljoša Jurinić (Croatia)
Fryderyk Chopin - Etude F major op. 10 nr 8
Fryderyk Chopin - Etude G-sharp minor op. 25 nr 6
Fryderyk Chopin - Nocturne C-sharp minor op. 27 nr 1
Fryderyk Chopin - Ballade G minor op. 23
Piano: Steinway
前者が細密画だとしたら、こちらは素描に近いかもしれない。バラード1番はミスタッチが散見されたが、勢いでどんどん前へ進んでいく。ノクターンも荒削りながら、大きく曲想を捉える力は垣間見えた。エチュードop.25-6の左手の表現はユニーク。最後のop.10-8は伸びやかな個性が発揮された。
13.30 - Fei-Fei Dong (China)
Fryderyk Chopin - Etude C major op. 10 nr 1
Fryderyk Chopin - Etude G-sharp minor op. 25 nr 6
Fryderyk Chopin - Nocturne D-flat major op. 27 nr 2
Fryderyk Chopin - Scherzo E major op. 54
Piano: Steinway
華奢な感じの彼女は、白いお姫様ぽいドレスで登場。が、音楽は予想に反して大柄である。ノクターンは一息で大きなフレーズを描く。細部まで神経の行き届いた美しい冒頭の後、繰り返されるテーマは次第に風格を帯びてくる。エチュードop.10-1はやや'練習曲風。スケルツォ4番は時折つなぎのフレーズが意図的になり一貫性が薄れる箇所があったが、中間部は濃厚に歌い上げ印象を残す。
14.00 - Claire Huangci (USA)
Fryderyk Chopin - Etude G-flat major op. 10 nr 5
Fryderyk Chopin - Etude A minor op. 10 nr 2
Fryderyk Chopin - Nocturne E-flat major op. 55 nr 2
Fryderyk Chopin - Ballade F major op. 38
Piano: Yamaha
国際コンクール常連で、日本でも知られているクレア・ファンチさん。紫の大人っぽいドレスで登場した。エチュードop.10-2はクリアな音でにごりなく、左手のスタッカートも躍動感に満ちたリズムに乗って奏される。ノクターンはよくピアノを響かせながら、自然な歌心が垣間見えた。バラード2番はやや速いテンポでさらりと始まり、卒なく美しく最後までまとめた。