内田光子リサイタルでショパン国際コンクールが開幕!
ショパン生誕200周年の今年、栄えあるショパン国際コンクールのオープニングを飾ったのは、日本が誇るピアニスト内田光子。数々の国際コンクール入賞を経て、このショパン国際コンクールで第2位銀メダルに輝いたのが今から40年前の1970年。何とこのポーランドの地で演奏するのはそれ以来ということで、ワルシャワでも大いに注目を集めていた。
既にトレードマークとなっているライトブルーの透き通った羽衣のような衣装にパンツ姿で、内田光子はワルシャワ・フィルハーモニーのステージに登場した。世界各地の一流ステージを踏んできたピアニストも、40年ぶりとなるこのステージには特別な思いがあろう。袖から軽くステップするように登場し、やや感慨深い表情を浮かべつつ、お辞儀をすると、瞬時にベートーヴェン・ピアノソナタOp.27-2の世界に没入した。
月光ソナタは、まるで朧月夜のように、月がうっすらと雲の隙間から姿を見せるような慎み深さを感じさせる。ソプラノを過度に際立たせることもなく、しかし消え入るわけでもない。ゆっくりと中音部に重心をかけながら音楽が進んでいく、それは祈りのコラールのようにも聞こえた。
続くシューマンのダヴィッド同盟舞曲集は、一転して自由闊達さとユーモアを交えて始まる。交互にやってくるオイゼビウスとフロレスタンの性格の描き分けは、オイゼビウスにより濃い影と深みを加えることで明確な対比を出す。その際、右手で描く旋律よりも、むしろ左手の進行やリズムが曲の推進力となっていた。これは後半のショパン前奏曲Op.45とソナタ3番Op.58第3楽章でも同様の印象を受けたが、左手のハーモニーが印象派の絵画のように境界線を感じさせずに変化していき、右手はその色彩感のわずかな変化によって突き動かされているようである。特に緩徐楽章での細部まで行き届いた音の配分、そしてわずかなディナーミクで、音楽の形を浮き彫りにした。ややラフスケッチのような第2・第4楽章も、第3楽章の深遠な世界を際立たせていたのが興味深い。
アンコールでは、J.S.バッハのフランス組曲第5番サラバンドと、モーツァルトのピアノ・ソナタ第15番K 545第2楽章を披露。最後は完全に内田光子の世界だった。胸に手を当てて深々と聴衆に向かってお辞儀をする姿は、きっと40年前も同じだっただろう。その姿を覚えている聴衆は、果たしてこの満席の客席の中にいただろうか。いずれにしても、聴衆は万雷の拍手で当夜の演奏を称えた。
会場にはコンクール出場者の姿もちらほら。数日後には、自分がこのステージで弾くことになる。彼らは大先輩の演奏をどう聴いただろうか?
2日はマルタ・アルゲリッチとネルソン・フレイレのデュオ・コンサートが行われる。