第09回 ステーンハンマルを味わう
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いらっしゃいませ。カフェ・モンポウにようこそ。
今日は、スウェーデンの作曲家ヴィルヘルム・ステーンハンマル(1871-1927,スウェーデン)の清澄な音楽の世界をご紹介します。
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(1871-1927,スウェーデン)
ヴィルヘルム・ステーンハンマル(1871-1927)は、ヒューゴ・アルヴェーン(1872-1960)と並ぶスウェーデンの国民的作曲家です。合唱曲「スヴァーリエ」Op.22-2(1905)(スウェーデン語で「スウェーデン」の意)は、スウェーデンの"第2の国歌"としてこんにちまで愛唱され続けているそうで、その透明な美しさは筆舌に尽くしがたいものがあります。
そんなステーンハンマルですが、生前はもっぱら指揮者・ピアニストとして名を馳せていて、作曲は多忙な演奏活動の合間を縫って行われていたようです。ストックホルムの音楽一家に生まれた彼は、幼少からピアノに親しみ、9歳のときに、アマチュア作曲家だった建築家の父親の手ほどきで作曲をはじめました。しかし、その後はほとんど独学で作曲の腕を磨きつつも、ドイツ留学を経てピアニストとしてデビュー、ピアニスト・指揮者として演奏活動に追われるようになります。彼は、偏狭な民族ロマン主義に与せずにもっと開かれた普遍的な音楽をスウェーデンから発信したいという願望を抱いていました。そのため、イェーテボリ交響楽団の初代主席指揮者に就任してからは、ヨーロッパの同時代の作曲家たちの新作をすすんで取り上げるとともに、スウェーデン近代音楽の祖といわれるフランス・ベールヴァルド(1796-1868)の作品の紹介にもつとめたといいます。このように、指揮者としての活動のなかで、彼は、作曲家としての自分の音楽がいかにあるべきかということを、絶えず自らに問いかけていたのかもしれません。
ステーンハンマルはブラームスのピアノ協奏曲第1番でコンサート・ピアニストとしてのデビューを飾っていますが、かねてからドイツ音楽への強い傾倒を示していて、その作品もとりわけブラームスの語法の影響を強く感じさせるものでした。しかし、同時代のシベリウスらの進歩的な作風に触発されつつ、徐々に独自の音楽世界を開拓していきます。1903年には、自分の交響曲第1番を、シベリウスへのコンプレックスから初演後に破棄しており(彼は同じ頃発表されたシベリウスの交響曲第2番の余りの素晴らしさに衝撃を受けたのです)、自らのスタイルを暗中模索する葛藤のほどがうかがえるエピソードとなっています。
ステーンハンマルの最高傑作と言われているのが、「管弦楽のためのセレナード」Op.31(1913)で、彼のメロディーメーカーとしての天分と、緻密な書法、オーケストレーションの妙が高次元で結実した名曲です。作品に横溢する北欧の叙情に身をゆだねる喜びはひとしおで、その清澄な響きには、しばし別世界に連れ去られる思いがします。
ステーンハンマルはピアノの名手でしたが、管弦楽曲や声楽曲に比してピアノ曲をあまり書いていません。今回ご紹介する2曲はきわめて初期の作品にあたりますが、作品に息づいた若々しい息吹と、"天性のメロディーメーカー"ステーンハンマルならではのキャッチーな旋律の魅力を純粋に楽しんでいただければと思います。
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実にリリカルな佳曲で、ソプラノとアルトのデュエットが美しい。ポリフォニーの扱いや楽想の展開にはやはりブラームスを彷彿とさせる部分があります。
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憂いを帯びた中間部では、ショパンのプレリュードの残像が見え隠れしますが、このメロディーラインは紛れもない"ステーンハンマル節"です。
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ステーンハンマルのピアノ曲において最大の人気曲です。その重厚でシンフォニックな演奏効果はやはりブラームスを彷彿とさせますが、何よりキャッチーな旋律とダイナミックなサウンドの"格好良さ"は特筆されましょう。
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甘美な第2主題とのコントラストの鮮やかさも見事で、コンサート・ピースとしても威力を発揮すると思います。
参考文献 『ニューグローヴ世界音楽大事典』 講談社
戸羽晟著『歌の国 スウェーデン』 新評論
大束省三著『北欧音楽入門』 音楽之友社
参考リンク 斉諧生音盤志
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