序文
ピアノが日本にやってきて約150年。私たちの文化にすっかり根付いています。演奏技術は格段に向上し、日本人が国際コンクールで優勝するようになり、世界でも有数のレベルの高さを誇ります。愛好者の裾野も広がり、私たち日本人にとって最も身近な楽器と言っても過言ではありません。
この発展は、ピアノ教育者によって支えられてきました。クラシックピアノを習得するためには、必ず先生という先導役が必要になります。たとえばピアニストの演奏を紐解こうとするとき、先導役が誰であったかというところに鍵があります。逆に、先導役の影響を無視して、弟子を語ることは難しいと言えます。つまりピアノ教育は、“師匠から受け継ぎ、後世にバトンを託す”という門下の仕組みを礎に、連綿とそれが積み重なった結果、今の発展に至ったのです。
これから、皆さんとピアノ教育史を辿る旅にでたいと思います。
教育史といっても、天才や偉人といった遠い存在ではない、先生方の教育の歴史です。ピアノ文化を支えてきた先生こそが、ピアノ教育の「礎」であり、「主人公」だからです。さまざまに彩られた先生の物語を一つ一つに光をあて、最後にはピアノ教育史の大きな絵を描きたいと思います。
すべての物語は、先生個人の経験に基づきますが、意外に自分と似た経験をしていることに気づくでしょう。もし、ピアノを習った時代が一緒であれば、同じ教則本を使っていたかもしれません。恩師は違うかもしれませんが、遡ると同じ恩師に当たるかもしれません。つまりはそう、これはわたしたちのピアノ教育の系譜なのです。
ピアノ教育における演奏技術、音楽性、精神などは、なかなか形に残りません。先生たちのお話や最新の研究資料をもとに、それらを発掘し、ピアノ教育の遺産に光を当てることができたらと願います。