第23回:荒木紫芳さん(エルム楽器/北海道)
私たちピティナの活動は、各地域の音楽教室の先生方の熱心な活動によって支えられています。しかし音楽教室だけでは、地域固有の複雑な人間関係や利害関係が絡むことも多く、どうしても一丸となってまとまりにくいのが実情です。各支部が、活発に活動できているのは、黒子となって束ねることに誠心誠意尽くして下さる方々がいるからです。
私たちは、そのような方々を、「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びし、これまでご一緒した取り組みを、この連載を通じて1年にわたりご紹介して参りました。その中には他の地域でも応用できる取り組みや、生徒集めの役に立つ数多くの情報が寄せられました。あまりに「いい話」でほろりとすることも・・・
ご紹介したAMSの人数は、2ケタに乗りましたが、調べれば調べるほど奥が深く、ご紹介したい方は増えるばかりです。今後もできる限りご紹介していきますので、地域の活動にお役立て願います。
引き続き、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズをお楽しみ下さい。
取材:大内孝夫
エルム楽器に事務局を置く道央胆振支部は、1998年4月の設立で、186名の会員を擁す。とりわけ最近の成長は顕著で、ここ3年の入会者は47名! 何が地域のピアノ指導者を惹き付けているのだろうか。エルム楽器の荒木紫芳さんへのインタビューに、支部長の斉藤香苗先生はじめ5名の指導者にも加わっていただき、道央胆振支部の会員交流会として、お話を伺った。
渡邉あゆみ社長、荒木紫芳さん、佐藤智さん、藤井賢敦さん
現地参加:斉藤香苗先生(支部長)、三浦明子先生、橋詰やよい先生
Zoom参加:佐藤和華先生、長井寿子先生
堀明久
荒木さんはエルム楽器さんとは勤務前から関りがあったとか。
はい。じつは近くに住んでいて、5歳のときから中学2年までここでピアノを習っていました。その後バトミントンの部活にはまってピアノを辞めてしまったんですが(笑) 私の就活時は大変な就職難だったのですが、エルムは積極的に採用していたので、思い切って応募し、入社することができました。通うのも便利で、仕事もどんどん任せてもらえるので、やりがいを感じています。
具体的にはどんな感じなのですか?
例えば亡くなった寺田良紀会長が「既成概念にとらわれず、新しい発想で店をつくってほしい」と言って、若い私たちに自分で考えて仕事をするよう仕向けてくださいました。それによって何でも自分事として考えられるようになりましたね。今ですと、新しく会員になった先生方に、入会したメリットを感じていただきたくて、会員の先生のご要望に応じたセミナーの企画を行うなどしています。会員の先生もすぐ反応してくださるので、次に何をしようか、と常に考えています。
コンクールなどで入賞する生徒さんはいないですが、荒木さんがこまめに声を掛けてくださるので、気後れせずに支部活動に積極的に加われています。他の先生との交流が増え、情報量が格段と高くなって入会したメリットを感じています。荒木さんは会員へのフォローがスゴイ!
そう。もう、陰の支部長だよね(一同爆笑)。
そんなことないです。ただ先生方が積極的だから、お互いにいい回転になっているんじゃないかな、とは思います。それでもまだまだ会員同士が会員と認識していないケースもあり、やるべき課題は一杯です。
新婚さんじゃないけど、「新入会員さんいらっしゃ~い」みたいな企画やろうよ。
あ、それ、いいかも(笑)
ところでピアノも子どもの習い事としてではなく、大人にもっと習ってほしいと思っているのですが、その点はいかがですか?
その通りですよね。私が教えていた生徒で音高に行きながら音大に行かなかった子がいます。男の子で、大手航空会社に入社したのですが、今また習いに来てくれているんですよね。その子を見ていると、小さい頃、何カ月も一曲を克服するために闘ってきたことが武器になっていて、しかも今、仕事しながらピアノを弾くことで人生を深めているように感じます。
そういう人材をどんどん増やしていきたいですね。特に日本はこれから人口が減り、アジアの発展で相対的な経済力も落ちざるを得ないですから、国力維持に文化は欠かせません。
でもね、私の生徒で就活の際に「ピアノはひとりプレーだからね」とネガティブに捉えられた子がいて。そういう誤解はどう解けばいいんですか?
そういう採用担当者がいる会社は、こちらから願い下げだな(笑)だって、ピアノってマルチじゃないですか。手指を瞬時に動かして、ペダル踏んで、譜面追いかけて。そういう想像が働かない人に採用を担当させる会社は、相当センスが悪い。しかもピアノの自己完結性やマルチタスク性は、仕事ではとても大きな武器になります。就活上のアドバイスとして言えば、ピアノのそういうところを、自信を持ってしっかりアピールすることですね。
そうですよね。じつは私は銀行に就職して、その後ピアノ教室を開いたのですが、銀行での仕事が、今とても役に立っています。逆に銀行時代もピアノで培った正確さや丁寧さがすごく役に立ちました。
大内さんがそのようなことを本に書いてくださって、私たちは凄く勇気づけられたんですよね。だって、ピアノやっている本人は、20年、30年、いや50年やったって、それがいいことなのかどうかわからない。外部の方から言われてはじめて、自分が頑張ってきたことを肯定的に受け止められるようになりました。
わぁ、嬉しいなぁ。
最近は、少しずつかもしれませんが、ピアノの裾野が広がっているように感じます。特級ファイナルでも、会場はこれまで音楽関係の方ばかりでしたが、最近では著名な華道家やスケート選手、棋士それに投資家なども来場されるようになりました。中にはご自身でピアノを弾く方もいらっしゃいます。世間にピアノへの理解が深まるきっかけにしたいところです。
それと、ピティナは塾や水泳教室など他の民間教育団体とも交流を深めているのですが、先ほど三浦先生の仰った自己肯定感がとても重要という点では一致しています。それにはその子が得意なものを、もっともっと伸ばしてあげないといけませんが、それは学校教育では中々できない。そこに私たち民間教育の存在意義があると思うのです。不登校だけどピアノ教室に通うのを毎回楽しみにしている子だってたくさんいますからね。
会員の活発な発言を見守っていらした渡邉あゆみ社長より、「北海道内で最も所属会員数の多い支部として、情報発信、交流、そして変化への対応を欠かすことなく、組織を発展させていきたいです。」との心強いメッセージで、会員交流会を締めくくっていただいた。
北の大地での会話は尽きない。支部の活発な活動ぶりの何よりの証拠だろう。じつは私は小学校4年から6年までの3年間、室蘭で暮らしていた。今も「室蘭音頭」を歌える。渡邉あゆみ社長はそんな室蘭で生まれ、進学校として有名な室蘭栄高校のご卒業だ。会長のご逝去で急遽ご登板となったが、お話しぶりには強い決意が滲む。第二の故郷が生んだエルム楽器。なんだか誇らしい。
取材日:2022年9月27日