ピティナ調査・研究

第22回:原谷昌伸さん(宝塚ミュージックリサーチ/兵庫)

第22回:原谷昌伸さん宝塚ミュージックリサーチ/兵庫
ゲスト:原谷昌伸さん インタビュー:大内孝夫

私たちピティナの活動は、各地域の音楽教室の先生方の熱心な活動によって支えられています。しかし音楽教室だけでは、地域固有の複雑な人間関係や利害関係が絡むことも多く、どうしても一丸となってまとまりにくいのが実情です。各支部が、活発に活動できているのは、黒子となって束ねることに誠心誠意尽くして下さる方々がいるからです。
私たちは、そのような方々を、「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びし、これまでご一緒した取り組みを、この連載を通じて1年にわたりご紹介して参りました。その中には他の地域でも応用できる取り組みや、生徒集めの役に立つ数多くの情報が寄せられました。あまりに「いい話」でほろりとすることも・・・
ご紹介したAMSの人数は、2ケタに乗りましたが、調べれば調べるほど奥が深く、ご紹介したい方は増えるばかりです。今後もできる限りご紹介していきますので、地域の活動にお役立て願います。
引き続き、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズをお楽しみ下さい。

取材:大内孝夫


宝塚西ステーションは2005年発足。会員数277名、11ステーションと全国有数の規模を誇る神戸中央支部でもっとも早い時期から活動してきたステーションである。当時勤務していた大手楽器メーカーで調律師として活躍していた原谷昌伸さんは、宝塚西ステーションを運営する一方、生徒数約350名、講師数約30名を誇る音楽教室、宝塚ミュージックリサーチの経営の舵取りを行っている。多くの音楽教室の先生方の参考になる話が聞けることを期待し、心躍らせ訪問した。


宝塚ミュージックリサーチさんは、進学科の他、ピアノ、フルート、クラリネットオーボエ、ヴァイオリン、チェロ、コントラバスなどさまざまなコースが用意されていますね。

神戸中央支部が1997年の終わりに開設され、当時は故福田靖子先生とピティナ普及のため全国を飛び回っていました。契機となったのがその2年後の2000年。近所で年配の女性がお饅頭屋さんとともにピアノ教室と習字教室をやっていたのですが、その場所で息子さんが病院を開くことになり、教室を閉鎖することになりました。その教室の生徒85人を引き継いだのが宝塚ミュージックリサーチのルーツです。創業家からすると50年続く音楽教室です。今となっては笑い話ですが、最初はひどい経営で、施設も整っていなかったため、すぐに20人が退会しました。その後も退会者が続き、実質的には50名くらいからスタートしました。

そこから350人の教室にするにはかなりのご努力や工夫があったのではありませんか?

そうですね。音楽教室は街にいくつもありますから、「ウチでしかできないもの」に徹底的に拘りました。妻がイベントを企画するのが得意だったので、「街おこしコンサート」などを積極的に行ったり、チェンバロやヴィオラ・ダ・ガンバなどを導入してバロック・アンサンブルに力を入れたり。そうした取り組みの中で、アンサンブルの楽しさを知ったら生徒はやめないのでは? ということに気付きました。またコンクールにチャレンジすることは生徒のモチベーションアップにつながっていると実感しています。また、神戸中央支部長の石井なをみ先生門下の生徒さんが成長して、多数講師として働いてくれています。みな基礎をしっかり学び音楽高校、大学に送り出されたので、安心してソルフェージュが任せられる。

拝見していると、教室の設備もとても魅力的です。

ありがとうございます。最初は3畳と4畳半の教室で(カラオケボックスより狭い)・・・だからみな辞めていったのですが(笑) 教室開設直後から弦楽器の教室を併設したのは功を奏したと思っています。弦楽器を吊るして外から見えるように展示すると興味を持って入会してくれました。その後生徒さんの増加とともに教室の拡張工事を行い、結構おカネもかかりましたが、他の教室との差別化につながりました。昨年宝塚市の都市計画にあたり移転したのですが、今では収容人数約80名の多目的ホール宝塚玲希庵(アトリエ・レノ)、防音レッスン室7室に、スタインウェイ2台を含むピアノ7台、チェンバロ1台、貸出用弦楽器などを完備しています。動画配信もできるよう、4Kビデオカメラ、ステレオマイクロフォンなどの設備も整えました。生徒のためにと思ってひたすらやってきたことが、今につながっている気がします。

コロナの影響はどうですか?

やはり大きいですね。450人くらいいた生徒が、今は350人ですから。ただコロナだけが原因ではなく、マンネリ化もあるのではないかと考えているところです。ワクワクすること、他でできない体験をすることが提供できていない、というのかな。もっと私自身が楽しめて、ワクワクしないと...そんな反省をしているときに、タップダンスの先生がご夫婦で訪ねて来られました。うちの教室に興味を持っていただいたようで、そこからコラボが始まりました。今ではタップダンス科の生徒が27名になり、ジャズピアノとのコラボレッスンも実現しました。タップダンスは幼稚園児から70代まで、幅広い世代の支持を集めています。マンネリ化から脱するきっかけにしたいところです。

地域による特性もあるとか。

そうですね。うちは家内が東大阪で教えていたのですが、そこで人気のあったリコーダー教室を宝塚にお呼びしたのです。東大阪ではリコーダーの生徒さんが50名いたのですが、宝塚ではさっぱり。本当に、全然集まらない。廃科にしようかと考えていたところ、今年なぜか15名入会しました。地域性とかタイミングとか、生徒集めにはさまざまな要因があるようです。ただ、大事なのは地域密着。これだけは外せません。

最近の入賞状況を貼り出した掲示板
最近の入賞状況を貼り出した掲示板
ピアノ科主任講師のレッスン風景(高橋光恵講師)
今年も兵庫学生ピアノコンクールはじめ多くの入賞がありました

どういうことですか?

ウチのルーツである年配女性の息子さん。病院の先生ですが、今は飲み仲間でもあります。その人が医療と音楽教室は共通しているというんですね。どこが? と聞いたら、どちらも「ドーナツはいらんのや」と。地域の周辺ではなく、地域に根差してこそ成り立つのが医院と音楽教室というわけです。

ビジネスの世界では、違うものの中から共通点を見出す、同じグループから相違点を探すことにヒントが隠れていることがある。医療と音楽教室、思わぬところに共通点があることに、深く納得した。

取材日:2022年6月30日