ピティナ調査・研究

第21回:吉田庄吾さん(開進堂楽器/富山)

第21回:吉田庄吾さん開進堂楽器/富山
ゲスト:吉田庄吾さん インタビュー:大内孝夫

私たちピティナの活動は、各地域の音楽教室の先生方の熱心な活動によって支えられています。しかし音楽教室だけでは、地域固有の複雑な人間関係や利害関係が絡むことも多く、どうしても一丸となってまとまりにくいのが実情です。各支部が、活発に活動できているのは、黒子となって束ねることに誠心誠意尽くして下さる方々がいるからです。
私たちは、そのような方々を、「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びし、これまでご一緒した取り組みを、この連載を通じて1年にわたりご紹介して参りました。その中には他の地域でも応用できる取り組みや、生徒集めの役に立つ数多くの情報が寄せられました。あまりに「いい話」でほろりとすることも・・・
ご紹介したAMSの人数は、2ケタに乗りましたが、調べれば調べるほど奥が深く、ご紹介したい方は増えるばかりです。今後もできる限りご紹介していきますので、地域の活動にお役立て願います。 引き続き、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズをお楽しみ下さい。

取材:大内孝夫


ピティナ富山支部は1998年に設立され、現在の会員数は67名。前回ご紹介した金沢西支部と同じく、開進堂楽器が事務局を担っている。富山県は地理的にとても興味深い所だ。ある大手食品メーカーのカップうどんは、西日本と東日本で出汁が違うが、富山はその境目で両方が味わえる。そして西日本か東日本かと議論されるが、多くの富山県民の認識は「北日本」。地域の新聞は北日本新聞、放送局は北日本放送で、「北日本」の文字が入った看板を至る所で見かける。この富山では、どのような活動が行われているのだろうか?

◆インタビューへの同席者
谷井彰氏(株式会社開進堂楽器 専務取締役 営業本部長)


富山支部の活動は長らく低調だったと伺っています。どんな感じだったのでしょうか?

そうですね。私は入社して38年になりますので、当時のことはよく覚えています。正直、訳がわからないままやらされている感じで、業務フローも明確になっていなくて今思えば、反省材料がたくさんあります。

変わるきっかけはいつ頃ですか?

2007年に大手楽器店ご出身の方のご指導を受けるようになってからです。その頃、正会員は1人だけで、指導者全員でも20人に満たない組織でした。それが、「色々なピアノコンクールがあるが、指導者を評価しているのはピティナだけ」と教わり、本腰を入れるようになりました。その月その月を何となく過ごしていた営業姿勢も、その先生のご指導によって時系列で業務が整理され、数字を明確にしていくスタイルに変わりました。その結果、5年くらいで支部会員数は倍増以上の50人を超え、今の体制に近づいたのです。

ステップ終了後、アドバイザーや支部の先生方と。

それはすばらしいですね。その他にも変化はありましたか?

セミナーも変わりました。以前は楽譜を売るためのセミナーがほとんどで、その上企画しても中々人が集まりませんでした。しかし、今では先生方からの要望も参考にしながら、さまざまなジャンルの講座を展開しています。北陸3県の支部では富山が一番先生方を多く、安定的に集められていると思います。

セミナーの効用はどんなところにあるとお考えですか?

何といっても、アカデミックなジュニア層を対象にストーリーを作ってアプローチできるところです。例えば先生方に向けてセミナーを開催する一方、伸びしろを感じる生徒さんには特別レッスンの受講を働きかけます。特別レッスンには先生も同席されますが、それを継続することで先生ご自身の成長につながっているのがよくわかります。そうして指導レベルが上がり、目指す音楽が緻密で高度なものになることで必然と表現力の高い楽器で練習したくなる、そんな好循環が期待できるようになりました。

それは見事ですね。

いえ、まだまだ会社からの期待に応えられるレベルには達していませんが。ずっと以前には外車に乗っている人や会社経営者を対象に企画を議論した時期もありましたが、なんか違うな、と。それに比べれば、少しずつ地に足がついている仕事になってきています。先生や生徒さんに「今年は東京に行くよ!」と声をかけているうちに全国決勝大会進出という事例がいくつもあり、そして、その延長でコロナ前までは、全国大会には必ず応援に行っていました。言霊は存在します。私たちの提案と先生や生徒さん、保護者の目指すものがうまく噛み合い、結果に繋がった時は本当に嬉しいです。

この日はステップで舞台係の応援。椅子や譜面台を出したり。
その一方で、演奏を聴きながら伸びしろを感じる生徒さんをチェック。

話は変わりますが、開進堂楽器さんは音楽以外の習い事も多いですね。

やはり少子高齢化が進んでいますから、会社としてはアカデミックなジュニア層だけではなく、大人を意識せざるをえません。音楽以外のカルチャー教室は、その受け皿になっています。お客様のご要望にお応えしているうちに、多様な習い頃ができる教室になった感じです。10年前は習いに来る人の割合は75%が子ども、25%が大人でしたが、今ではそれぞれ70%、30%くらいになっていますし、大人の割合は今後も増えると考えています。

その他開進堂楽器さんならではの特徴として、どんなことがありますか?

ギター部門の店舗展開と販売ノウハウが突出しています。富山はBlue Guitars高岡はRed Guitars、福井はGreen Guitars、白山はWhite Guitars。そして地方にありながら全国、そして海外からもオーダーが入るセンスと個性が光る品揃え。さらにオリジナルブランド、StilbluやNAGI GUITARSの開発と軌道乗せ。バンドブーム経験のある親世代は今でもギターへの関心が高く、個人製作家、工房/ファクトリー、新鋭ブランド、ハイブランドなど、バイヤーの琴線に触れたセレクトが支持されているように感じます。

ありがとうございます。最後に吉田さんの今後の抱負をお聞かせ願えますか?

ひとつは支部のメンバーの固定化が気になっています。これを何とかしたい。今年から富山でもブルグミュラーコンクールが開催されますので、これを機会と捉えて新しいメンバーを増やしたいです。富山にはまだまだ旧態依然としたレッスンを続けている先生が多いかも?私たちが開催するセミナーに足を運んで頂ければ、新たな気付きがあるはず。先生方のレッスンの質が上がれば、必然的に優秀な生徒が育ち、全体のレベルも底上げされるのではないかと?

もうひとつは自分が携わった生徒さんの活躍を後押しすることです。まだ未成年ですが、音楽事務所にも所属して本格的な演奏活動をされている生徒さんがいます。彼が成人したら一緒に呑みに行って、彼に介抱されるのが夢です。「吉田さん、しっかりして下さいよ」って(笑)。

2019年全国決勝大会 G級
演奏が終わった後の中瀬智哉さんと。

吉田さんは、ステップのプログラムの挨拶文ではかなり突っ込んだメッセージを書いている。「音楽は楽しい、でも、楽しい練習はありえない」とか「てっぺんから見える風景と同じくらい価値のある、続けた先に見える風景」など。その吉田さんの語り口は穏やかで、時にユーモア溢れる。願いがかなった際の生徒さんの姿を思い浮かべているような穏やかなお顔から、富山の音楽の明日が見えた。

取材日:2022年5月16日