ピティナ調査・研究

第20回:本多翔悟さん(開進堂楽器/石川)

第20回:本多翔悟さん開進堂楽器/石川
ゲスト:本多翔悟さん インタビュー:大内孝夫

私たちピティナの活動は、各地域の音楽教室の先生方の熱心な活動によって支えられています。しかし音楽教室だけでは、地域固有の複雑な人間関係や利害関係が絡むことも多く、どうしても一丸となってまとまりにくいのが実情です。各支部が、活発に活動できているのは、黒子となって束ねることに誠心誠意尽くして下さる方々がいるからです。
私たちは、そのような方々を、「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びし、これまでご一緒した取り組みを、この連載を通じて1年にわたりご紹介して参りました。その中には他の地域でも応用できる取り組みや、生徒集めの役に立つ数多くの情報が寄せられました。あまりに「いい話」でほろりとすることも・・・
ご紹介したAMSの人数は、2ケタに乗りましたが、調べれば調べるほど奥が深く、ご紹介したい方は増えるばかりです。今後もできる限りご紹介していきますので、地域の活動にお役立て願います。 引き続き、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズをお楽しみ下さい。

取材:大内孝夫


金沢西支部の事務局運営を担う開進堂楽器。富山県高岡市の創業だが、大手楽器店や地域の楽器店の経営基盤を引き継ぎながら徐々に業容を拡大し、今や北陸3県(石川、富山、福井)全域にて事業展開を行っている。そのためピティナでは、福井支部をサポートするとともに、金沢西支部、富山支部の事務局運営を担っている。今回は金沢西支部、そして次回は富山支部の活動状況についてお伝えする。

◆インタビューへの同席者
井阪将寿氏(株式会社開進堂楽器 代表取締役社長)
谷井彰氏(株式会社開進堂楽器 専務取締役 営業本部長)
堀明久(ピティナ本部事務局 組織運営室長)


金沢におけるピティナの活動状況を教えていただけますか?

石川県には石川県支部と当支部の2支部があります。当支部は2008年に連絡所として設立されて以来、2010年に支部となり、現在では金沢、のと七尾、白山くろゆりの3ステーションを中心に125名の会員が活発に活動を行っています。どのステーションのステップも開催が決まるやすぐにほぼ満員となるほどの盛況ぶりです。

それはすばらしいですね。ようやくコロナが沈静化に向かい、通常ベースに戻りつつありますが、この間はかなりご苦労されたのではないですか?

そうですね。ただそれはどこの支部も同じだと思います。

大変な困難の中でしたが、我々としてはピティナならではの提案にとても助けられました。例えば課題曲チャレンジ。コロナ発生当初はどうしたらいいか、途方に暮れるばかりでしたが、あの企画のおかげで多くの生徒がピアノの学びを止めずに済んだと思います。我々の経験では、コンクールを1年飛ばした生徒の半数以上がコンクールに戻ってきませんが、課題曲チャレンジがあったからこそ昨年のコンクールに多くの生徒が挑戦できたと考えています。

提案といえば、提携コンクールもそうですね。北陸地区でのブルグミュラーコンクール開催はこれまで福井のみでしたが、今年は石川、富山でも開催し、福井で北陸ファイナルを行います。大きなチャレンジですが、ぜひ成功させ、生徒さんたちのピアノ学習意欲を刺激したいと思っています。ピティナならではの取り組みは、地域のピアノや音楽活動の活性化に役立つものが多いので、これからも学習意欲向上や先生の指導熱を高める取り組みに期待しています。

そう言っていただけると、企画した甲斐があります。本部としてもさらに頑張らないと。時にすぐ撤退する企画もありますが(笑)、知恵を絞って考えます。

話は変わりますが、コロナ前の2018年は支部設立10周年を記念して大きなイベントを行ったと伺っています。どのようなものだったのですか?

例年2月に行っているコンペ入賞者記念コンサートとは別に、2019年3月に指揮者以外はすべて子どもの演奏者でのコンサートを開催しました。2台ピアノや連弾の他、地元の石川県ジュニアオーケストラにご協力いただき、ハイドンのピアノ協奏曲を1楽章ずつ交代で3人のリトルピアニストに弾いてもらいました。また弦楽器とのデュオやトリオアンサンブルも行い、いつもとは全く異なる、貴重な経験を生徒さんたちに届けることができました。

それはすばらしいですね。ピアノ学習ではアンサンブルがとても重要だと思うのですが、そのような機会は中々ないので、本当に貴重な経験だったのではないでしょうか。生徒さんたちの笑顔が思い浮かぶようです。

ありがとうございます。特に会場が石川県立音楽堂で、プロオケのオーケストラ・アンサンブル金沢の本拠地ですから、多くの子どもたちがプロと同じ舞台に立てた高揚感を感じたようで、終了後は大興奮でした。本物の空気を吸わせてあげることの大切さを学んだ気がしています。

なんでも本物に触れるとか、その雰囲気を味わうのは大事ですね。大人の音楽へのお取り組みは如何ですか?

最近は子どもの頃にピアノ経験がない方のピアノ購入事例が増えている気がします。この間も3年ほど前にアップライトをお買いになった70代の方が、最上級クラスのグランドに買い換えられました。これには驚きましたね。最近のピアノ購入層の4人に1人くらいは大人ではないでしょうか。

MPC楽器センター金沢の店内にて

それは貴重な情報ですね。昨年12月に個人金融資産はとうとう2000兆円を突破しましたが、その85%前後は50代以上が握っています。この方たちの多くはその多くを余らしたまま人生を終えています。もったいないですよね。是非多くの高齢者に楽器の楽しさや面白さを知って頂きたいです。最後に本多さんの今後の抱負を聞かせて頂けますか?

そうですね、ふたつあって、ひとつは地元に根付いた活動を行っていくことです。私はピティナでは金沢西支部の運営に携わっていますが、一方では開進堂楽器の社員として北陸3県すべてを視野に入れておかなければなりません。それぞれの県、あるいは同じ県の中でも地域によって違いがありますから、そうしたことをきちんとスタッフの間で情報共有し、お客様のニーズにしっかりお応えできるようにしていきたいです。もうひとつは、世界的に活躍できるピアニストを石川県から輩出する取り組みに関わることです。底辺を広げる活動とトップアーティストを育てる活動を、どちらも疎かにせず取り組んでいきたいと思います。

支部の幹部会員とのミーティング風景

本多さんはトロンボーン奏者で最初はピアノ販売に戸惑ったという。今ではピアノの先生のニーズをしっかり捉え、大きな成果を上げている。開進堂楽器の若きエースの溌溂とした表情から、会社の明るい未来が伝わってきた。

取材日:2022年5月16日

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