第17回:谷村一歩さん(マツヤマ楽器/愛媛)
私たちピティナの活動は、各地域の音楽教室の先生方の熱心な活動によって支えられています。しかし音楽教室だけでは、地域固有の複雑な人間関係や利害関係が絡むことも多く、どうしても一丸となってまとまりにくいのが実情です。各支部が、活発に活動できているのは、黒子となって束ねることに誠心誠意尽くして下さる方々がいるからです。
私たちは、そのような方々を、「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びし、これまでご一緒した取り組みを、この連載を通じて1年にわたりご紹介して参りました。その中には他の地域でも応用できる取り組みや、生徒集めの役に立つ数多くの情報が寄せられました。あまりに「いい話」でほろりとすることも・・・
ご紹介したAMSの人数は、2ケタに乗りましたが、調べれば調べるほど奥が深く、ご紹介したい方は増えるばかりです。今後もできる限りご紹介していきますので、地域の活動にお役立て願います。
引き続き、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズをお楽しみ下さい。
取材:大内孝夫
四国最大の都市、松山。愛媛県の政治経済の中心であるばかりではなく、正岡子規、夏目漱石などのゆかりの地で、道後温泉や松山城などの名所も多いことから、文化都市、観光都市としても注目を集める。必然、音楽への熱量も大きく、ここには2つのピティナ支部がある。今回はそのひとつ、会員数56名の松山支部を訪ねた(残念ながらオンライン(涙))。
コロナ禍が相変わらずですが、今年はコンペが開催される予定です。応募状況はいかがですか?
幸い募集開始後すぐ定員に達し、応募を締め切りました。例年170名程度募るのですが、今年は午後8時までに完全撤収が必要で、換気のため演奏間隔をあける必要もあり120名としました。参加希望がかなわなかったお子さんが多数いるはずで、心苦しく思います。愛媛は特にピアノ熱が高い県なので、なおさらですね。
愛媛のピアノ熱の高さを感じるのはどのような点ですか?
何といっても先生方の意識の高さです。コロナ禍において、全国的にレッスンを中断する教室が多かったと思いますが、愛媛では多くの先生がピアノの学びを止めてはいけないとの強い思いから、中断せず、感染対策を万全にしながら対面レッスンを続けました。それに応えるように、生徒さんも熱心に学んでいます。 今回のコンペ応募がその象徴です。ホント、堰を切って、という言葉そのもの、という感じでした。
なるほど。ところでピティナ支部になられて、大きな変化はありましたか?
はい。当社は創業時より「地域の音楽文化向上と普及に貢献」を経営理念に掲げてきました。目先の利益に捉われず、先生方のお役に立つことが地域の楽器店の役割の一つと考えてきましたので、支部を設立できたことは大きな転機となりました。これまでも先生とのお付き合いは多かったのですが、支部設立以降、お繋がりができました先生の数、お付き合いの深さとも従来とは比較にならないほど充実しました。
何かそれを象徴するエピソードのようなものはありますか?
例えばですが、ある時「今すぐ教室に来られますか?」と先生からお電話があり、伺ってみると、生徒様と親御様から他の楽器店でピアノを購入しようと相談を受けていたところでした。それを先生が、「ピアノは買って終わりではなく、買ってからお付き合いが始まる。一度、マツヤマ楽器さんにも相談してみたら?」とお話しして下さったのです。お話しするお時間をいただけましたので、私ながらにご説明させていただいたところ、有り難いことにその場でご成約に至りました。
それはすごいお話ですねぇ。
本当に有り難いお時間をいただきました。もちろん、その生徒様、親御様にご納得していただけたことに感謝いたしましたが、先生にそこまでしていただいたことに胸が熱くなり、また責任の重さを肌で感じる瞬間でした。
いいお話をありがとうございます。ところで、マツヤマ楽器さんは音楽教室も併設されています。レスナーの先生と競合することはないのですか?
ありません。親御様から教室紹介の依頼を受けた際は、どのような教室をお望みかをうかがった上で、先生を紹介するようにしています。また当社の教室から他の先生に移りたい希望がある場合も、きちんと取り次ぐようにしています。
それでは教室の生徒さんはどんどん減ってしまうのでは?
正直、影響はあります。それでもピティナ支部設立を機に深まったレスナーの先生とのご縁を大事にすることで、そのマイナスは補えると考えています。
とはいえ心配なのは、マツヤマ楽器さんの講師の先生方です。生徒さんが減ると、収入面でお困りではありませんか?
たしかにそれはありますが、講師の方々の生計が成り立つよう、当社で出来る限り支援を行っています。契約日以外は自宅などでのレッスンを奨励し、教え方がわからない先生にはベテランの先生から技術指導が受けられるようにしています。またチラシ作成、ポスティング、自宅近隣のマーケティングなどのアドバイスも行っております。
なるほど。東京などでは講師に生徒を取られないよう、通勤に1時間以上掛かる教室に配属する話を耳にします。
講師が自立しても、新たなお付き合いが始まります。さまざまな教室ができることで、教室の選択肢も広がる。お互いが切磋琢磨し、少子化に負けずに地域のピアノ学習者を増やしていきたいと考えています。
楽器店に併設された音楽教室は多いが、自教室の講師の自立支援を積極的に行っているのは稀ではなかろうか。講師育成をレスナー開拓に結び付け、ピアノ販売の成果にもつなげている"マツヤマ方式"は、全国の楽器店、音楽教室も学ぶべき点が多いはずだ。伊予松山の革新が、全国に広がることを願う。
取材日:2021年5月10日(Zoomによるオンライン取材)