第16回:綿屋耕三さん(西村楽器/宮崎)
私たちピティナの活動は、各地域の音楽教室の先生方の熱心な活動によって支えられています。しかし音楽教室だけでは、地域固有の複雑な人間関係や利害関係が絡むことも多く、どうしても一丸となってまとまりにくいのが実情です。各支部が、活発に活動できているのは、黒子となって束ねることに誠心誠意尽くして下さる方々がいるからです。
私たちは、そのような方々を、「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びし、これまでご一緒した取り組みを、この連載を通じて1年にわたりご紹介して参りました。その中には他の地域でも応用できる取り組みや、生徒集めの役に立つ数多くの情報が寄せられました。あまりに「いい話」でほろりとすることも・・・
ご紹介したAMSの人数は、2ケタに乗りましたが、調べれば調べるほど奥が深く、ご紹介したい方は増えるばかりです。今後もできる限りご紹介していきますので、地域の活動にお役立て願います。
引き続き、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズをお楽しみ下さい。
取材:大内孝夫
観光地の多い九州は意外と広い。博多から飛行機を使わずに宮崎に行こうとすると、特急「にちりん」号で5時間近くかかる。かつて小倉に勤務していた筆者はそう思い込んでいたが、今は九州新幹線を使って鹿児島経由で行く方がずっと早いのだそうだ。海、山、川の自然に恵まれ、温泉地も多いこの地にも、ピアノへの熱い情熱を持った方がいた。西村楽器が運営する宮崎支部(会員数69名)にて17年間事務局を担当する綿屋耕三さんである。
さっそくですが、綿屋さんがピティナ支部を運営なさる上で大事にされていることがあると伺っています。お教えいただけますか。
先生方が希望する運営を実現することに徹することです。この支部は、心からピティナが好きな先生方の集まり。ですから先生方はみな仲もよく、福岡などで開催されるセミナーに団体で参加されたり、指導のアドバイスをし合ったりしています。12人の実行員の先生が毎月定例会を開くために集まり、運営方針や行事日程、予算執行などを決めています。この自主的な運営を尊重し、何か問題が生じたり、困ったりしたときだけ中に入るよう心掛けています。
最近はコロナで中に入らざるを得ない局面も多かったのではないですか?
そうですね。今年度は4年に1度宮崎県立芸術劇場で開催している弦楽器やオルガンの先生を招いての特別記念ステップを中止せざるを得ませんでしたし、コンペも中止となりました。幸いブルグミュラー(動画審査)とバッハのコンクールは開催できたため、宮崎支部・宮崎北支部合同の受賞者コンサートを、参加資格のある35組、38人により開催することできました。出演者にはとても励みなったようで、嬉しく思っています。また、先生方や私たちにも新たな発見がありました。これまでコンペはハードルが高いと感じていた生徒も、ブルグやバッハなら参加意欲を示すことです。またそこでの自信が、コンペ参加や更なる学習意欲につながることもわかりました。来年もバッハ、ブルグとコンペの受賞者コンサートを一緒に開催できるよう、予定を組んでいます。また、課題曲チャレンジも開催されるとのことですから、それならコンペと両方参加させよう、との機運も盛り上がっています。
それはいいですね。じつは私はあがり症なので、受験から何から本番に弱いんですよ。部下の結婚式でピアノ弾いたら手足が震えて演奏にならなかった苦い経験もあります。だから私みたいなお子さんには課題曲チャレンジってすごくいいと思うんですよね。
確かにあがり症のお子さんには、まさにいい「チャレンジ」の機会ですね。私もあがり症のタイプなので、そういうお子さんには積極的に課題曲チャレンジに参加させたいと思います。
ところで、綿屋さんはピティナで劇的な再会を果たされたとか。
はい。野本由紀夫先生(玉川大学芸術学部教授)です。私は九州の音楽短大を卒業後、さらに音楽を学ぼうと東京で野本先生に個人レッスンを受けていました。野本先生のレッスンは、教えるというよりは、学ぼうとする気持ちが強くなるレッスンで、その中で「モーツァルトのタッチを宮崎に持って帰れ」と言われたのがとても印象に残っていました。それから何十年も経って、野本先生が審査員として宮崎に来られたのです。まさか今やNHK Eテレ「ららら♪クラッシック」の解説でもお馴染みになられた先生との再会が適うとは思っていませんでしたから、夢のようでした。「ピティナは出会う環境がすごい!」と感じた瞬間です。自分がどれだけモーツァルトのタッチを宮崎に持ち帰れたかは心もとないですが、時々ご連絡させて頂くつながりが復活できたのは、紛れもなくピティナのお陰で、感謝しかありません。
音楽でつながる人の縁、とてもすてきですね。じつは私にも音楽でつながった同じような経験があります。近刊予定の『「ピアノ習ってます」は武器になる』(音楽之友社刊)にてご紹介しますので、楽しみにしていてください。
ピアノの本を出されるのですか!
綿屋さんと同じ、小さい頃習えなかった人間だからこそ、の視点で書きました。ピアノを習う価値の高さは、私たちが想像する以上のものだと思います。どこがすごいか、は読んでのお楽しみということで(笑) 最後に全国のみなさんに向けて、ひとこと頂けますか? この連載初の試みです。どうぞみなさん、宮崎支部綿屋さんからのメッセージを、動画にてお受け取り下さい。
宮崎で結ばれた音楽がもたらす再会の縁。音楽には不思議な力が備わっている。
取材日:2021年3月3日(Zoomによるオンライン取材)