第15回:中野智子さん(旭堂楽器店/京都)
私たちピティナの活動は、各地域の音楽教室の先生方の熱心な活動によって支えられています。しかし音楽教室だけでは、地域固有の複雑な人間関係や利害関係が絡むことも多く、どうしても一丸となってまとまりにくいのが実情です。各支部が、活発に活動できているのは、黒子となって束ねることに誠心誠意尽くして下さる方々がいるからです。
私たちは、そのような方々を、「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びし、これまでご一緒した取り組みを、この連載を通じて1年にわたりご紹介して参りました。その中には他の地域でも応用できる取り組みや、生徒集めの役に立つ数多くの情報が寄せられました。あまりに「いい話」でほろりとすることも・・・
ご紹介したAMSの人数は、2ケタに乗りましたが、調べれば調べるほど奥が深く、ご紹介したい方は増えるばかりです。今後もできる限りご紹介していきますので、地域の活動にお役立て願います。
引き続き、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズをお楽しみ下さい。
取材:大内孝夫
古の都、京都には会員数118名のピティナ京都支部がある。支部長は、創業137年を誇る「船はしや総本店」を営む辻美千子先生。お話をうかがっていると、ご近所にて御所南ステーションを運営する旭堂楽器店さんの音楽教室には、お子さんへの情熱溢れる運営担当者がいるという。中野智子さん、その人だ。2020年師走に、多田裕昭社長とともに、お話をうかがった。
今年はコンペもステップもなくなり、残念でしたね。
そうですね。音楽教室も2月に2週間と、4,5月のほとんどを休み、再開は6月になりました。ただ楽器店は休まず開けていると、思わぬ先生がお越しになったり、新しい調律先ができたり、悪いことばかりではありませんでした。ITに対応するいい機会と前向きに捉え、店内にWi-Fiを通し、オンライン・レッスンにも取り組みました。
私もオンライン・レッスンに対応するため、自分でレッスンを受けてみました。音がズレるとか、生の音でないと、という声もありますが、私には結構快適だったなぁ。機材を色々試してみると、音のズレがほとんど感じられないものもあり、5Gになればさらに進化するはずです。オンライン・レッスンには、多くの可能性がある気がします。
飛沫が多く飛びそうな歌やフルートでは、120人収容できる当店の「サンホール」を生徒さんが使い、先生には自宅からレッスンして頂きました。普段はステップや発表会、コンサート会場として使っています。舞台にピアノが3台置けるので、ステップの前日にはスタインウェイ、ベヒシュタイン、ベーゼンドルファーを弾き比べるレクチャーコンサートを開き、当日は生徒さん毎に希望するピアノで弾いてもらうようにしています。
え、発表会やステップで、生徒さんが弾くピアノを選べるのですか?
はい。その方が生徒さんは喜びますからね。
それは生徒さんが羨ましい。中野さんは、生徒さんのために、新任の先生には必ずお伝えしていることがおありだとか。
ええ、生徒さんができる限り長く習い続けられるよう、2つお伝えしています。ひとつは優しく楽しめるようなレッスンを、ということです。ご自身の経験から、ある程度厳しくないと生徒は育たないと考える先生がいますが、習い始めは曲が基礎的であまり面白くないのに、レッスンまで厳しければ、ショパンなどピアノを心から楽しめる曲を習う前に辞めてしまいます。それではとってももったいない。楽しければ、辞めませんからね。
もうひとつは、学校の音楽の授業や吹奏楽などの部活で困らないレッスンを、ということです。1つでも得意科目があれば、学校生活は楽しいし、他の教科に波及するかもしれません。それに中学に入れば、別の楽器に興味を持つのは自然なこと。ですからうちの教室には、ピアノのレッスンにフルートやトランペットを持ち込む生徒がいます。先生は楽器のことはわからなくても、リズムや旋律が正しく演奏できているかチェックし、アドバイスしてくれるので、ピアノを辞めずに部活動にも励む多くの生徒がいます。
それはすばらしい! 私もセミナーで、「生徒さんに学校の音楽授業で困っていることはないか聞いていますか?」とよく問いかけるのですが、「なんでそんなこと聞く必要があるの?」という顔されることが多いですね。
うちもそうでした。ピアノはピアノ、学校は学校。でも保護者は違います。ピアノを習わせれば、当然学校の成績もよくなると思っている。とはいえ学校の授業は、歌やリコーダーもありますから、ピアノを習えば成績が良くなるとは限らない。だから「うちでピアノを習えば、学校の授業はバッチリよ!」と胸を張って言える教室でありたいです。
他にピアノを長く習い続けられる工夫はされていますか?
室内楽に力を入れようと思って、今、自分で勉強しているところです。ピアノって他の楽器と違って、アンサンブルの機会が少ないじゃないですか。それではピアノはわかっても、音楽はわからない。アンサンブルを通じて、より音楽を深く、楽しく学んでほしいですね。
最後に今後の夢をお聞かせいただけますか?
「ピアノは子どもの時に習っていないと」という固定観念を壊したい。うちの教室では、大人から始めてもどんどん上達しています。だから、大人にもっとピアノを広めたい。あと、私が先生方にお願いしてきたことで、レッスンが厳しくてやめた生徒は減ったはずです。だから生徒たちが親になって、「ここで習って楽しかったから、子どもにも習わせたい」って言われたいですね。勤務して7年だから、もう少し先かなぁ。
ここまで生徒のことを考えている教室の運営担当の方にお会いしたのは初めてだ。オンラインも室内楽もご自身で経験し、工夫して運営に取り入れている。教室は、先生のみならず、運営方法でも大きく変わる。
取材日:2020年12月8日