第11回:髙橋なつきさん・藤田健一さん(スガナミ楽器/東京)
私たちピティナの活動は、各地域の音楽教室の先生方の熱心な活動によって支えられています。しかし音楽教室だけでは、地域固有の複雑な人間関係や利害関係が絡むことも多く、どうしても一丸となってまとまりにくいのが実情です。それでも各支部が、活発に活動できているのは、黒子となって束ねることに誠心誠意尽くして下さる方々がいるからです。
私たちは、そのような方々を、「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びし、これまでご一緒した取り組みを、この連載を通じて1年にわたりご紹介して参りました。その中には他の地域でも応用できる取り組みや、生徒集めの役に立つ数多くの情報が寄せられました。あまりに「いい話」でほろりとすることも・・・
ご紹介したAMSの人数は、2ケタに乗りましたが、調べれば調べるほど奥が深く、ご紹介したい方は増えるばかりです。今後もできる限りご紹介していきますので、地域の活動にお役立て願います。
引き続き、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズをお楽しみ下さい。
取材:大内孝夫
ピティナ町田支部が事務局を置くスガナミ楽器町田店。じつは思い出深いお店である。私の小学生時代に両親が家を買い、移り住んだのが町田だった。中学2年生の時に遅ればせながら音楽に目覚め、通い詰めた。もう40年以上前になる。さすがに老朽化が進んだようで、今は建て替えのさなか。支部所属会員209名、9つのステーションを誇る町田支部の活動を、スガナミ楽器経堂店でうかがった。
町田支部の特徴は、静岡県の伊東市から世田谷区の池尻まで、小田急線沿線中心ながらも広域で活動していることと、さまざまなタイプの先生がいらっしゃり、多様な音楽活動が展開できていることです。あと、地域に昭和音楽大学があり、ピティナ本部を通じて、とてもいい関係が築けていることも大きな特徴ですね。例年ピティナ・コンペの予選・本選会場に音大のホールを使わせて頂いており、入賞者記念コンサートも支部総会とともに音大で開催しています。本選会場、しかも音楽大学の素晴らしいホールで演奏できることは、生徒の大きなモチベーションアップにつながっています。
多様な音楽活動・・・どんな活動だろう?
例えば町田のステップでは、パーカッショニストをお呼びして、ブルグミュラー等のピアノソロ曲でドラムとのアンサンブルをしたり、エレクトーンとヴァイオリンでバスティンの曲を演奏する企画や、先生どうしで「竹取物語」などの昔話に合わせた選曲での連弾演奏の部もあります。あとプログラムの中に「メンズの部」を作って、男の子や大人の男性も参加しやすい環境作りも行っています。その場合、アドバイザーも、必ず1人は男性の先生にお願いするようにしています。
生徒が女の子ばかりで、男の子は居心地が悪いという話は、宇都宮短大の飯塚敦さんからも体験談としてうかがった。男の子や成人男性をいかにピアノの世界に取り込むか。他の支部でも参考になる取り組みだ。
ところでコロナの影響で、多くのコンペやステップが中止になった。
本来コンペで忙しいこの時期に、思いっきり肩透かしを食った感じです。ただね、意外にもピアノが売れています。コロナ対策で入場制限しても、毎日2組くらい予約がコンスタントに入ります。お父さんが在宅勤務になって、生徒さんとピアノについて話す機会が増えたのかもしれません。巣籠りしてもできるピアノのメリットが再認識された面もあるかもしれませんね。
そういえば、ある番組でウクレレ人気が報じられていた。音楽にとって、コロナは決してマイナスばかりではないはずだ。
まだまだ途上ではありますが、オンライン・レッスンに新たな可能性を見出せたのは大きな発見ですね。例えばお母さんが仕事で忙しくて送り迎えできなくても、オンラインなら自宅でレッスンが受けられる。リアルとオンラインをうまく組み合わせれば、生徒は休まずに済みます。また先生方にも、生徒の日頃の練習について、意外な発見があったようです。弾いていて目線が下を向きがちなのは、楽譜を黒鍵の上に置いて練習していたからだとか、電子ピアノだと思っていたらキーボードを使っていたとか。逆に電子だと思ったらアコースティックという場合も(笑) 自宅での練習の様子を知ることで、生徒に付く悪いクセの原因がわかり、改善策につながった面もあったようです。コロナでできることがなくなる中、ピアノだけは習い続けられたと、親御さんにとても感謝されたお話も伺いました。
生徒のピアノ学習環境に不足があることを指摘するのは簡単だ。教える側からすれば、キーボードより電子ピアノ、電子ピアノよりアップライト、アップライトよりグランドなのだろう。しかし、ご家庭にはそれぞれ事情がある。生徒の環境にあわせて、ピアノを学ぶ楽しさや喜びをどう伝えるか―――それこそピアノの指導者の腕の見せどころではないだろうか。コンペの中止からも学べることはある。コロナは、ピアノ学習の意義を改めて考える、いい機会といえそうだ。
グランドをお持ちの先生がオンラインレッスンに必要だからとキーボードを買われたり、普段ガラケーでシステム関係に疎い先生がオンラインに果敢に挑戦したり。先生方も、試行錯誤されています。コロナをきっかけに、練習の仕方、教え方、審査のあり方など、多くのことが変わっていく気がします。ステップのイメージも大きく変わるかも。大人、男性、ピアノ以外の楽器や歌とのアンサンブル・・・既成概念に囚われない万能なステージにしたいですね。今回の課題曲チャレンジには、そのヒントが一杯ありそうで、とても楽しみです。
町田支部は、全国でも有数のセミナー開催に積極的な支部でもある。しかし、中心になる町田店が建て替え中で、最近は思うように開催できていないという。町田店の一日も早い完成を待ち望む。そして是非、昔通ったあのお店の雰囲気を味わいたい。
取材日:2020年6月16日