第10回:寺島敦さん(日本楽芸社/福岡)
私たちピティナの活動は、各地域の音楽教室の先生方の熱心な活動によって支えられています。しかし音楽教室だけでは、地域固有の複雑な人間関係や利害関係が絡むことも多く、どうしても一丸となってまとまりにくいのが実情です。それでも各支部が、活発に活動できているのは、黒子となって束ねることに誠心誠意尽くして下さる方々がいるからです。
私たちは、そのような方々を、「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びし、これまでご一緒した取り組みを、この連載を通じて1年にわたりご紹介して参りました。その中には他の地域でも応用できる取り組みや、生徒集めの役に立つ数多くの情報が寄せられました。あまりに「いい話」でほろりとすることも・・・
ご紹介したAMSの人数は、2ケタに乗りましたが、調べれば調べるほど奥が深く、ご紹介したい方は増えるばかりです。今後もできる限りご紹介していきますので、地域の活動にお役立て願います。
引き続き、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズをお楽しみ下さい。
取材:大内孝夫
日本楽芸社内に本拠を置くピティナ福岡支部。150名近い会員を擁するが、50名ほどは、ここ3年以内の新入会員。ピティナ支部開設草創期にあたる1979年から40年に及ぶ伝統とフレッシュさを併せ持つ。事務局長の寺島敦さんにお話を伺った。
ピティナで初めての支部が78年設立と聞いていますから、ウチは最古参に近いですね。私は81年に入社しましたので、会社員人生すべてをピティナとともに歩んできた、というのが実感です。入社当初、コンペ参加者は数十名で、1日で終了。会場は社内のショールームで、外の騒音を気にしながらやっていたのが懐かしく思い出されます。それが今では音響効果の高い会場で、部門もA2からE、F級そしてグランミューズ部門(以前はコンチェルト部門も担当)まで広がり、隔世の感があります。福田靖子先生が『日本全国どこでも同じように音楽が学べるように』との想いでピティナを立ち上げて下さったご恩に、少しかもしれませんが報いることができている気がします。
ここまで発展できた要因ついて、うかがってみた。
ピティナの仕事をする中で、コンクールに挑戦する子どもたちの成長の早さは明らかで、しかもそれが日常のレッスンにもいい影響を及ぼしていると感じました。それを、色々な先生方にお伝えしたのです。生徒が数人しかいない先生、40~50人いるけれどコンクールにあまり関心のない先生・・・言い続けていたら、段々顔を向けてくれるようになりました。やはりコンクールは、子どもにとって最高の舞台ですからね。教室の発表会では、同じ顔ぶれで慣れっこになってしまうこともあるし、もっと多くの人に聴いてもらいたい、との思いのある生徒だって、きっといるはずです。
寺島さん、じつはジャズピアニストでもある。そのきっかけを聞いてみた。
高校時代の衝撃の経験からですね。友人に連れられてジャズ喫茶に行ったんですよ。鉄の扉を開けると、窓のない暗がりからすごい大音響!あのインパクトは今も忘れられません。その空間に惹かれ、のめり込んでいきました。即興演奏の仕組みを解析するのが楽しくて、入社後、レッスンに通いました。そうこうするうちに、営業でショールームにいると、生ピアノの演奏を聴かせるホテルやお店のピアニストからいろいろジャズについて相談を受けるようになって。最初はアドバイスのつもりが、いつの間にかレッスンする側になり、演奏依頼も来るようになりました。当時は会社で仕事して、30人くらい教えて、月2回くらいライブ活動の生活でした。
ジャズを語りだす寺島さん。自然と口調にも力がこもる。最近はクラシックの先生からの相談も多い。
今はバスティンとか、とてもいい教材がありますが、それでもクラシックだけでは生徒が集まりにくいようです。ジャズ風のアレンジや即興、リズムを学んでレッスンに活かしたい、との声が多くなりましたね。私は音大卒ではありませんが、私の生徒、半数は教室の先生です。ステップでプロのベーシストとのアンサンブルを取り入れたい、との相談もよく受けます。そんな中で、子どもがジャズ風の曲の練習をすると、これまで関心が薄かったお父さんが、人が変わったように応援するようになって。そうなると、ピアノも長く習い続けられます。クラシックの楽譜を忠実に追及するのは計り知れない価値ですが、時にはそこから少し外れて、モーツァルトやショパンをジャズ風にアレンジしたっていいんじゃないかな。ジャズならではのオシャレなハーモニーをちょっと取り入れただけで、すごく感じが変わる。そしてジャズの醍醐味は、何といってもインタープレー。ジャズではコード進行などを簡単に打ち合わせ、たまたまその場にいる人同士で集団即興演奏ができる。こういう自由さって、ジャズならではだと思います。そういう自由さがジャズにはあります。ただ残念なのは、子どもにジャズをと思っても、それに対応した教材がほとんどないこと。ですから、親しみの持てるモチーフで私がオリジナル曲を作り、その音源データを先生に渡すこともあります。でもね、これではジャズ風ではあっても、まだジャズじゃない。コードか一行のモチーフから、色々なアドリブができて初めてジャズになる。そんなジャズを、少しずつでも広めていきたいですね。
音楽が本来持つ自由さ。自由といっても無秩序ではなく、きちんとした理論に裏付けられた自由さだからこそ、インタープレーは可能になる。楽譜に忠実なあまり、あるいは楽典に縛られるあまり、我々はそんな自由さを失ってはいないだろうか?
Keep on Music―――この取り組みは、何も今回のコロナ禍に始まったものではない。みんなで頑張ってはいるが、「小4の壁」など習い続ける壁は厚い。
ジャズをひとつのヒントにできないだろうか?
考えてみれば、私が行きつけのイタリアン、フレンチ、すし店には、いつもジャズピアノが流れている。しかしその曲を習えそうな教室は、近くに見当たらない。
取材日:2020年4月21日(Zoomによるオンライン取材)