ピティナ調査・研究

第4回:森本綾子さん(AMS→ピティナ本部事務局)

第4回:森本綾子さんAMS(元ヤマハ広島店・岡山店)→ピティナ本部事務局

「音楽は世界の共通語」という言葉があるように、音楽はグローバルな視座で捉えられることが多い一方、民族音楽にはじまり、国歌、民謡、更には校歌に至る地域性も併せ持っています。音楽教室は、その地域の音楽を支えるコミュニティとしての機能が期待されているわけですが、音楽教室だけでその機能が果たせるわけではありません。そこでピティナでは楽器店や調律師など、「地域の音楽教育を支える存在」の方々を「エリア・ミュージック・サポーター(AMS)」とお呼びすることとし、AMSの方々と連携した取り組みを始めました。すると、次々と音楽教室の先生方に活用して頂きたい情報や、ピアノにまつわる深い~ぃ話が出て来るではありませんか。それらを是非先生方に知って頂き、お役立ていただきたいと考えました。AMSのみなさんの素晴らしい活動を、大内孝夫さんによるインタビューを通じたシリーズでお伝えします。

取材:大内孝夫


楽器販売員、調律師、音楽教室担当者、ホール関係者―――地域の音楽コミュニティは、さまざまな立場の人に支えられている。音楽教育界に限らず、人はそれぞれの立場の経験が長くなると、とかく自分の立場優先になりがち。でも、それでは地域の音楽コミュニティは、上手く機能しないのではないか。
そんなことを考えていたら、いつもピティナ本部でお世話になっている森本綾子さんにお話をうかがいたくなった。彼女の楽器販売員、調律師、2つのピティナ地域支部、そしてピティナ本部と様々なご経験に、きっと大きなヒントがあるに違いない、と思ったからだ。
森本さんは、大学卒業後に調律師資格を取得し、2002年4月、ヤマハ広島店にご入社。入社時の先輩で、現在ピティナ広島中央支部(森本さんご入社時は広島中央連絡所)事務局を務める中津美和さんとともに、同支部の会員数を、入社当時の27人から、わずか5年で150人近くまで伸ばした立役者。その勢いは今も留まることなく、現在支部では会員数363人を誇る。広島時代はどんな思いでピティナ支部を運営していたのだろう。

『ヤマハに入社して、最初はピアノ販売の業務に従事していました。入社1年で中津さんが産休に入り、私がピティナ支部事務局担当を引き継いだのですが、その直後に沖縄で開催された全国支部連絡会に参加し、大きな衝撃を受けました。うまくいっている支部は、みな先生方が運営の中心。事務局は先生の要望をまとめたり、それにどう応えるか考えたり。当時の広島の運営とは大きく異なっていたのです。』

 入社2年目にもかかわらず、森本さんの動きは早かった。早速会員主体の運営への切り替えに取り組む。連絡所開設5年で目立った成果がなく、運営方法に悩んでいたのだろうか。ヤマハも協力的だった。たった半年で、地元会員の信頼が厚い先生に支部長や役員にご就任頂き、会計もヤマハから切り離した。効果覿面! この支部長や役員が磁石の役割を果たし、先生が先生を呼び、ステーションもどんどん立ち上がった。
『決して組織を大きくすることが目的だったのではありません。当時は広島からピティナコンペで全国決勝大会まで行けるのは毎年10組未満。決勝大会に行くのが目的ではないけれど、行ければその子の自信にもなるし、もっとピアノを頑張ろうと思ってくれるかもしれない。それには先生が学び合える環境を作らなければ、と思ったんです。』
ポイントは、先生同士の横のつながり。ステップの開催頻度を高め、アドバイザーの先生にはセミナー講師にもなって頂いた。そのセミナーは評判を呼び、さらに学びたい先生が会員になった。
その流れは07年にピティナ支部に復帰した中津さんがさらに加速させ、今では全国決勝大会に、毎年のべ30組前後を送り出す。生徒や先生のレベルアップは目を見張るばかりだ。15年には支部事務局が独立し、カワイ関係者の入会も増えている。

『広島と岡山の支部を経験し、感じたのは地域ごとに特色があるということ。広島で成功したやり方が岡山で通用するとは限らないし、逆も同じ。それぞれの特色を、上手く活かす大切さを学びました。それと、先生方の意見に耳を傾けつつ、支部としてのバランスを考えた舵取り。そこがまさにエリアミュージックサポーター(AMS)の腕の見せどころではないかと思います。』
その際、本部はどう活用すればいいのだろう?

2012年に「良い環境でピアノを学習していただきたい」という思いから、ピティナで作成、発行した、ピアノの魅力をお伝えする小冊子『豊かな響きで彩る ピアノのある生活』

『支部にいるときは、「まず本部ありき」と思っていました。でも、本部に来てみると、各地の支部活動によってこそ、本部が成り立っている。様々な活動の中で、何か行き詰まることがある際は、ぜひ本部にフィードバックして頂き、一緒に問題解決にあたりたいですね。』
とはいえ支部活動の中心は、やっぱり一人一人の、今そこにいる生徒。その生徒のために何ができるのか、その生徒を教えている先生に何ができるか―――そういうことを真剣に考え、生徒を応援しているAMSと、そうではないAMSでは、自ずとパフォーマンスに大きな違いが生じるはず、と森本さんは結んでくれた。

経済界に目を向けると、従来の企業活動は、まずは自分の利益ありきだったが、最近は変わってきた。例えば強烈なライバル関係にある運送会社が共同配送体制を構築するといった具合に、Win-Winの関係を重視する姿勢が目立つ。その方が、結果として自社の利益につながるからだ。この考えは、今や成熟産業となったピアノにもあてはまる。
これまでインタビューしてきたAMSは、その重要なプラットホーム。音楽教室に限らず、すべてのメーカーや音大をも巻き込むことで、地域の音楽コミュニティの活性化に貢献できる。組織横断的にAMSを育てる仕組み作りはできないものか。僭越ながら、そんな取り組みをピティナに期待したくなった。

毎年3月1日に本部が主催する東京でのコンペ課題曲説明会にて、広島中央支部の先生方と(向かって一番右が中津美和さん)

「目先の1台より未来の100台」―――広島中央支部の先生方とAMSの織り成すハーモニーには、そんなメロディーがよく似合う。

(取材日:2019年9月25日)