ピティナ調査・研究

第03曲「レガーティッシモ」

アルカンを音楽史の中で位置づけようとすると、相当に難しい。いちばん楽なのは、「ちょっとした例外」としてなるべく触らないようにすることなんじゃないかな、と思う。正当に評価されない理由も、実はこの辺にあるのかも......などと勘繰りたくなるくらい。

アルカン好きを自認する私ですが、「アルカンの特徴って何?」と訊かれると答えに詰まる。「うーむ、ヘンなところかな」などと答えそうな気すらしてくる。いえ、挙げていけばいろいろあるんです。

バロック以前の古い音楽から影響を受けている。

かと思うと逆にやたら前衛的な試みを自然体のままやってしまう。

ピアノ界のベルリオーズと言われるほど分厚い和音を多用した書法が目立つ。

どんな大作を書いても決して自己陶酔せず、ユーモアを忍び込ませるシャイなところがニクイ。

あ、最後のは音楽的な特徴とは違いますね。単なる私の印象ですね。ごめんなさい。

ともかく、たとえば同時代のショパンリストと見比べてみると、違いがよくわかる。ショパンもリストも、彼らの最大の特徴と魅力がどういった部分に表れているかを指摘するのは難しくありません。また、どのような演奏スタイルで臨めばその魅力を引き出せるのか、というのもはっきりしています。

ショパンは何と言っても、美しいメロディーだ。彼の音楽を魅力的に響かせるには、そのメロディーを滑らかに繋げる歌心と、ピアノの音色の変化を最大限に聴かせる繊細な指が必要だ。

リストは何と言っても、仰々しさと紙一重のカッコよさだ。彼の音楽を魅力的に響かせるには、力強いタッチとよく回る指、カッコつけることを恥ずかしがらない度胸が必要だ。

......まあ、これらはある程度、世間の認識の上に形作られたステレオタイプではあるでしょう。例えばリストの晩年の作風なんてぜんぜん違う。けれど、少なくとも間違いではないというレベルで、彼らを言い表している。

アルカンの最大の特徴と魅力はどこなのか? ――とても難しい。これは私にとってだけでないはずです。ショパンもリストも大勢の亜流を生んだけれど、アルカンにはそれがない。彼の、ある特定のアイディアを真似したと思われるような作品は、特にフランス近代にはいくつも見られます。が、彼の作風そのものを真似しようという人は出てこなかった。というより、言葉で言い表せる特徴が「変」しかないので、真似なんて出来なかった。

これは、アルカンの音楽に特徴がない、というのとは断じて違います。ショパンにも、リストにも増して、アルカンには彼にしかない特徴が確かにある。あるのだけど、その特徴はひとことで表そうとすると、「変」になってしまう。そういうわけなのです。

......筆者が納得してるだけで読者はとても納得できない文章という気がしてきましたが。まあ、この連載を続けてお読みいただければきっといつしか納得していただける、はず。

さて、今回は「レガーティッシモ」で、タイトル的に前回と対になっています。もちろん sempre legatissimo で弾きましょう。経過和音の響きが移り変わっていく様、その中での転調過程をよく味わうこと。ただし、経過和音に気をとられて息の長いレガートの感覚をなくしてはいけません。 dolce の指示には気を配りましょう。最後の5小節くらいは特に、経過和音が、普通の調性感からちょっと逸脱したアルカン一流の面白い響きの流れを作りますので、その風味を楽しんでみてください。

ではでは、また。次回のタイトルは「鐘」です。


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