ピティナ調査・研究

特級お手紙企画がきっかけで大躍進(わたしのKeep On Music第26回)

わたしの Keep on Music
第26回 特級お手紙企画がきっかけで大躍進
塩谷啓太さん(2022年度C級銀賞/真宮恵美先生)

「谷昂登さんの演奏を聴いて、カミナリに打たれたような衝撃がありました!」とお手紙をくれた2020年、まだピアノを初めて半年という小学4年生だった塩谷啓太くんは、その憧れとピアノの楽しさを胸に、2022年度のコンペティションC級で銀賞受賞へと至りました。塩谷くんをピアノへと大きく突き動かしたこの2年半のストーリーを伺いました。

ゲーム音楽からコンクールへの興味へ

啓太は小さい頃から、いつも楽しそうに歌って踊る、とても元気な男の子でした。ゲーム音楽が大好きで、電子ピアノでゲームのBGMを見よう見まねで弾いていました。そしてYouTubeで「ゲーム音楽を弾いてみた」というカテゴリーに出会い、視聴して行く中で「かてぃん(角野隼斗)さん」の動画に出会いました。「こんな風に弾いてみたい!」と強く憧れを抱くようになり、その頃からピアノがとても楽しく、独学で練習を重ねていきました。

そして2019年の冬。啓太にとって最大の転機が訪れました。ピアノを楽しく弾いている事を知っていたご近所さんから「誰でも受けられるコンクールがあるみたいだから、チャレンジしてみたらどうかな?」と、かながわ音楽コンクールの申込用紙を頂きました。

真宮先生とイチからのスタート

学びたい気持ちがあふれていたので、さっそく課題曲の譜読みに取りかかりました。しかしピアノを習った事がなかった為、すぐに行き詰まり「これは独学では無理なのでは?」と気がつきました。角野隼斗さんが優勝されていた「ピティナ」の先生にせっかくだから習ってみよう!と体験レッスンに行き、「この先生に習いたい!」と決めたのが、現在もご指導いただいている真宮恵美先生でした。

まずは読譜の方法やリズム、本当に初歩の初歩からはじめました。先生は、音楽に関する色々な事を、一から丁寧にご指導してくださいました。経験値を少しずつ積み重ねていき、レッスンの度にピアノがどんどん好きになり、学ぶ事が楽しくなっていきました。

ただ残念な事にピアノを習い始めた2020年はちょうどコロナ禍が始まってしまい、「かながわ音楽コンクール」「ピティナ・ピアノコンペティション」は中止になってしまいました。

ピティナ特級の配信を聴き、その想いをお手紙に

コロナ禍だった2020年夏。角野隼斗さんや亀井聖矢さんが優勝されたピティナ特級が、YouTubeで配信されている事を知り、2次予選からたくさんの方の演奏を視聴しました。そして谷昂登さんの演奏に出会い、雷に打たれたような衝撃を受けて「谷さんすごい!」と大ファンになりました。「同じ会場、同じピアノでも、弾く人によってこんなにも違いがあるんだね!すごいね!」と楽しく視聴しました。そして「特級を聴いてお手紙を書こう!」の企画を通じて、谷さんにお手紙を書き、直筆のお返事をいただきました。とてもとても嬉しくて、すぐにピアノに飾りました。それからは、谷さんのご活躍を知るたびに、自分のことのように喜んでいました。

できることが増えていく「レベル上げ」の嬉しさ

先生とのレッスンでは、毎回新たな発見や気づきがあり、できる事が少しずつ増えていく、嬉しさや達成感がありました。先生のご指導は、的確でわかりやすく、レッスンを受けるたびにレベルアップしていく感覚がありました。レッスン内で教えて頂いたことを出来るように、コツコツ積み重ねていく2年半でした。

クラシック音楽を聴くことも大好きで、ピアノのコンサートへ何度も足を運びました。角野さん、亀井さんのYouTubeのメンバーシップに登録し、解説動画を視聴したり、SNSを活用しながらたくさんの学びを得ていました。

結果よりも得た経験が宝、の言葉を励みに

いくつかのコンクールを受け、予選通過が出来なかったもの、全国大会に出場できたものなど、色々ありました。コンクールに出ることで、曲への取り組みがさらに深まり、また舞台で弾く経験が啓太にとって成長へのステップアップになりました。講評をいただけることで、今後の課題を知ることもできました。啓太は、わりと切り替えがすぐにできるタイプだったので、結果へのこだわりは、あまりありませんでした。

谷さんがおっしゃっていた「結果より過程が大切」という言葉が「どんな結果でも頑張った積み重ねは経験値として生きていくんだ」と強く思わせてくれました。先生も「結果はついてくればもちろん嬉しいけれど、結果よりも経験が大事だよ」とおっしゃっていました。

今年のピティナは予選通過からずっと不安で、結果発表までは本当にドキドキの連続でした。まさか全国大会に出場し、銀賞をいただけるとは夢にも思っていませんでした。全国大会では「ピアノに命を吹きこませる」と意識し、会場にいる方に音楽が届くように意識して弾きました。緊張の糸が切れることなく、ずっと向上心と情熱を持ってコンクールにのぞめたことは、先生の素晴らしいご指導のおかげだと思っています。

最後に、啓太に関わってくださった全ての方々へ。応援してくださりありがとうございます!感謝の気持ちでいっぱいです。これからもコツコツと出来る事を積み重ねて、楽しくがんばります!!

2022年9月取材/文・塩谷啓太くん保護者の方より

谷昂登さんより(2020年度特級銅賞)

大変嬉しいお知らせをありがとうございます。
このように、私たちより低い年齢の方達からのメッセージというものは、すごく心強く、また音楽家になる上での自覚を再認識させられるものでした。
そして、音楽に関わる方々の裾野を広げていくためには、このような一つ一つの関わりを大切にし、そしてお互いが高め合える環境になっていくことが一番だと思っております。
そのような中で、素晴らしい演奏をしてコンクールでも頑張っていることは、私にとっても大変勇気づけられます。
今後とも精進してまいりたいと思います。

真宮恵美先生より(神奈川県横浜市/正会員)

啓太くんが初めて教室に来た時、独学でやっていたという割には、ただ音が並んでいるわけではなく音楽的でもあり、直観的に面白い子だなと感じました。耳コピや憧れのピアニストがいたことでイメージ力がついていたのだと思います。でも指遣いも読譜もタッチも学んだことがなかったので、先は長いかなと思っていました。最初はやはり基礎の勉強よりも、指を動かして音が鳴ることが楽しくてたまらないように見え、レッスン内でできるようになったことが次のレッスンでは半分以上消えてしまうこともありました。


コンクールに対しても、この春までは「緊張もせず楽しく弾けました!」と帰ってくるものの、結果は伴いませんでした。聞くと、本番会場に楽譜も持ち込まず、会場のスタッフや他の参加者の様子を観察して楽しく過ごしていたそうです。「楽しむことは素晴らしいこと、でも啓太くんのしている楽しむは、1人だけの楽しむだよね?聴いて下さっている方、作曲をして下さった方、全ての方と楽しむを共有して、はじめて成り立つのじゃないかしら」という話をしました。その後の予選で、はじめて物凄く緊張したとの報告を受け、私はやっと演奏するという覚悟が持てたのだなと思いました。


レッスンの時にも、今の自分の演奏はどうだったか?と常に振り返る癖をつけるなど、楽しんで弾く中にも、冷静で客観的な耳を持てるよう心掛けました。啓太くんは、どんな難しく厳しい話をしても、決してくじけることはなく、いつも前向きに頑張っていました。この夏の快進撃は、ひとえに「楽しむということについての意識改革」に尽きると思います。