親子で学べる継続的な音楽セミナーを(わたしのKeep On Music第25回)
広島せせらぎステーションでは、この夏休みを利用して「夏休み企画!きみだけの音楽を作ってみよう!(DTMセミナー)」という親子向けのセミナーを開催しました。実はステーションで親子向けのセミナーを開催するのはこれで6回目。継続的に「親子で学べる機会」を作ることで見えてきた効果もあるという代表の村井文先生に、これまでの親子セミナーの様子やその想いを伺いました。
以前より、子どもたちにはピアノの演奏技術や知識だけでなく、作曲家や音楽史、ピアノ以外の楽器や音楽理論、作曲など、広く興味を持ってほしいと思っていましたが、私たちピアノ指導者には各地で多くのセミナーが開催されるのに、子どもが参加できるセミナーはとても少ないことを残念に思っていました。
子どもが参加できるセミナーを開催するきっかけとなったのは、2017年の夏休みにバロックダンスの第一人者である浜中康子先生が広島へ来てくださることに決まったことです。子どもから大人の音楽愛好家まで、どんな方にも参加していただける「バロックダンスセミナー」を開催したいという願いが通じ、広島文化学園大学教授の末永雅子先生(正会員)が代表を務める「ピアノ指導者研究会」と共催で開催することができました。
これを皮切りに、夏休みだけでなく春休みなど大型連休を利用して、子どもも保護者も一緒に参加できるセミナーを開催するようになりました。保護者の方にも、お子さんの送迎だけでなく、一緒に学び、広く興味を持っていただきたいと思い、どのセミナーにも「ファミリー券」も作って親子で学べるようにしています。
日程 | 2017年8月27日(日) |
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講師 | 浜中康子先生(バロックダンス)、岩淵恵美子先生(チェンバロ演奏法) |
参加者数 | 91名 |
第1部・2部はバロックダンスを浜中先生にご指導頂きながら岩淵先生のチェンバロ演奏に合わせて踊り、 第3部では岩淵先生に舞曲の奏法をチェンバロでレッスンしていただくという、とても贅沢なセミナーでした。
参加者は小学生の親子からピアノ指導者、音楽愛好家まで幅広い方々にご参加いただき、メヌエット、ガヴォット、ブレなど日頃ピアノで演奏している曲のステップを学んでいただきました。第3部は、小学生から大学生、ピアノ指導者を受講生とした公開レッスンの形で行いました。第3部の前には、岡山のチェンバロ工房からチェンバロを運んでくださったチェンバロ製作者の難波修さんにチェンバロの構造についてのお話をしていただきました。チェンバロを初めて生で見る子どもたちは興味津々でした。
日程 | 2018年8月26日(日) |
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講師 | 末永雅子先生 |
参加者数 | 35名 |
広島文化学園大学の学芸学部音楽学科長の末永雅子先生に、ピアノをめぐる多くの作曲家について、音楽の歴史、そして鍵盤楽器が時代とともにどのように移り変わったかなどをお話しいただきました。会場にはチェンバロ、クラヴィコードを運び入れて、目の前の楽器を見聞きしながら、その構造や音色、奏法、現代のピアノとの違いを学ぶことができました。各時代の作曲家、作られた曲、楽器などをスクリーンも使って分かりやすくお話しくださり、子どもたちは学んだことをレポートにまとめました。
日程 | 2019年1月14日(月・祝) |
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講師 | 岩淵恵美子先生(チェンバロ・フォルテピアノ) |
参加者数 | 42名 |
チェンバロ、フォルテピアノ奏者の岩淵恵美子先生をお迎えし、バロック時代について、そしてバロック音楽の奏法・解釈を解説していただき、子どもたちはレポートにそれぞれまとめました。参加者は小学生で、聴講者は小学生、保護者、ピアノ指導者でした。後半は小学生5名の受講者を対象に、公開レッスンの形で行いました。子どもたちはいつも教えてもらっているピアノの先生とは違う、バロック音楽の専門家から直接レッスンを受け、その様子を聴講することで、よりバロック音楽に興味を持ったようです。
日程 | 2019年3月17日(日) |
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講師 | 末永雅子先生、広島文化学園大学学芸学部の学生さんたち |
参加者数 | 42名 |
末永先生に様々な楽器についてお話をしていただいた後、広島文化学園大学学芸学部の学生さんたちが、ご自分の専門の楽器について説明をしてくださいました。広島文化学園大学のご協力もあり、「トランペットのお部屋」などたくさんのお部屋にそれぞれの楽器について探検に行く形で、子どもたちは大興奮でした。それぞれの楽器がどのような構造になっているか、どんな音色か、吹奏楽やオーケストラなどでどのような役割をするかを学びました。学生さんたちの演奏を聴かせていただいたり、実際に自分たちでも楽器を演奏させていただいたり、とても楽しい時間を過ごしました。
日程 | 2019年9月16日(月・祝) |
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講師 | 浜中康子先生(バロックダンス)、岩淵恵美子先生(チェンバロ演奏法) |
参加者数 | 54名 |
好評だった第1回とほぼ同じ内容での開催となりました。第1回目の参加者があまりにも多かったため、定員を少し少なくしました。
日程 | 2022年8月21日(日) |
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講師 | 笹川浩資先生 |
参加者数 | 27名 |
今年の夏休みに開催したのが、子どもから大人までが参加できるDTM(デスクトップ・ミュージック)セミナーです。小・中学生とその保護者、高校生、大学生、ピアノ指導者、大学の先生まで幅広い層の参加者が、それぞれ自分のスマートフォンで音楽を作る実践型のセミナーとなりました。
今回のセミナーは、広島文化学園大学に新しくDTM専門の先生が入られたことがきっかけで企画しました。正直、私自身はDTMと言う言葉さえ知らなかったのですが、内容をお聞きし、これは子どもたちが絶対興味を持つだろうと思いました。また、子どもたちが口にする「ボカロ」や「初音ミク」などの話題に全くついていけず、子どもたちとの話題のギャップを感じているピアノの先生は私だけではないはずだと思い、ぜひピアノの先生にもご参加いただきたいと思いました。お父様との親子参加や、オーボエや音楽療法などの分野の大学の先生もが参加してくださったのは、今までのセミナーではなかったことです。
講師の笹川先生は、無料のアプリをダウンロードしたスマホやタブレットで「どんぐりころころ」のメロディとドラムを1小節ずつ作っていくという作業を、小学生でもわかるように、画面をスクリーンに映しながらゆっくりと丁寧にご指導くださいました。子どもたちは飲み込みが早く、与えられた課題以上にどんどん進めていき(笑)、メロディとドラムのみを打ち込む説明が終わるころには、なぜか他の楽器でリズムやハーモニーが何重にも打ち込まれたとても豪華な「どんぐりころころ」が出来上がっていました。
「子どもたちにも理解してもらえるか心配だったが、飲み込みの早さに驚いた。みんな 楽しそうに受講してくれて安心した。」と笹川先生。セミナーに参加された先生方からは、レッスンや授業で使えるアイテムが一つ増え、これからどんな風に活用するか考えるのが楽しいと言っていただきました。セミナーを受講した私の生徒は、セミナーから帰宅後すぐに続きを作ったり、他の曲で試したりし、後日レッスンにタブレットを持って来て、自作の曲を聴かせてくれました。セミナー後に自ら復習する姿を見るのは初めてだと保護者の方から連絡を頂きました。
これまで、バロックダンス、チェンバロの構造や演奏法、広島文化学園大学の設備と学生さんたちのお力を借りた楽器探検など、「子どもたちが興味を持ちそうなこと(子ども目線)」と、「興味を持ってほしいこと(講師目線)」両方からテーマを考えてきました。レッスンでは取り上げにくいこと、また、ピアノ指導者研究会との共催という利点を生かして、専門家の先生に直接教えてもらえること、大学の人材や設備を活用できる内容を取り入れることなどもポイントです。
子ども向けのセミナーを続けてきたことで、ピアノのみではなく、他の楽器、音楽史、音楽理論など、音楽に広く興味を持ち、知りたいと思ったことを自ら探求する力がついたと思います。実際、セミナーに何度も参加している子どもたちは、どのセミナーでも積極的で、「知りたい」という気持ちが大きく育っているようです。もちろん、1回受講しただけで全ての内容を理解するのは難しいかもしれませんが、子どもたちの興味の扉を開き、探求心を育てるきっかけになっていると思います。その先は、子どもたちが自ら深く、広く、知識を増やしていってくれる と信じています。
2022年9月取材/文・せせらぎステーション 代表:村井文