ピティナ調査・研究

思春期にも意欲的にピアノを継続する工夫(わたしのKeep On Music第24回)

わたしの Keep on Music
第24回 思春期にも意欲的にピアノを継続する工夫
上村浩子先生(大阪府松原市/指導会員)

小学校高学年から中学生ぐらいまでの、いわゆる思春期を迎える生徒さんたちへのピアノ指導に悩まれている先生方は多くいらっしゃいます。そんな中、音楽専門の学校に通っているわけではない思春期の生徒さんたちが多くお教室に残り、コンクールやステップでも活躍を続けている大阪の上村浩子先生に、ピアノ継続のモチベーションを上げるお教室の工夫について、お伺いしました。

一人一人に合わせた目標・計画を一緒に考える

私の教室には、小学校高学年から中学生にあたる生徒さんが、現在18名通っていらっしゃいます。皆さん、受験や学校の部活や塾など忙しい中でもピアノを辞めず、うまく両立しながらステップやコンクール、グレードなどにも挑戦しています。今まで当たり前のようにそのように指導してきましたが、今回このお話をいただき、改めて、レッスンの内容以外で生徒さんのピアノ学習の継続につながっていると思われる取り組みを振り返ってみました。

この時期まで続けている生徒さんのほとんどが、3,4歳の頃から通っており、音高を目指しているからとかではなく、一般校に通いながらも趣味で続けている生徒さんたちです。中には進学校を受験しつつコンクールにも挑戦したり、合格後にすぐにコンクールを目指すような生徒さんもいらっしゃいます。

私が指導の上で大切にしていることは、本人や保護者とよく話し、「それぞれの目標を持つこと」「目標に向かって計画的にやること」です。「漠然と練習」したり「強制する」のはよくないと思っています。一人一人の性格や成長度合い、保護者の考え、家庭環境は異なりますので、その子に合わせて、ピティナのコンペやステップ、グレードやブルグミュラーコンクール、日本バッハコンクール、グレンツェンピアノコンクール、べーテン音楽コンクールなど、様々な選択肢の中から、課題曲の内容、会場、結果の出方などを考慮して提案しています。

どういう場や可能性があり、その子が何にチャレンジできるのかは、小さい子どもにはもちろん、保護者にも分からないので、まずはこちらから提示してあげる必要があります。また、ピアノ指導者として生徒と向き合う中で、保護者が気づかないような伸びしろや可能性が見えることがあるので、指導者から見た可能性をちゃんとお伝えすることにしています。子どもは、きっかけ一つで一歩踏み出し、違う世界へと飛び出すことができますから。

小さい頃の計画的な学習習慣が、思春期に生きてくる

目標を定めたら、それに向かって一緒に計画を練ります。例えば、舞台慣れに課題がある子は、何月の本番までに、ステップで舞台経験を積み、アドバイスをもらっておく、など。小さい頃から、1か月後には〇〇が、2か月後、3か月後には〇〇ができるようになっている、というように、大きな目標に向かって無理のない小さな目標を設定していきます。目標に向かって計画的に挑戦することが習慣づくと、それを体で覚えてくるので、大きくなると自分から、〇月ごろにステップに出ておきたいとか、今度このコンクールがあるから、その前に一度同じホールのステップに出ておきたい、などと言ってくるようになります。

このように計画的に学習して目標を達成する習慣が小学生のうちについている子は、高学年や中高生になって、学校や塾、クラブなどで時間が取りづらくなっても対応できるようになります。

宿題の出し方も、一人一人の状態にあわせて考えています。現実的に一週間でどのくらいできるかを一緒に確認し、時間がない時には全部やらなくてもいいので、片手だけや、この部分だけ丁寧に、とやらせています。雑に30分や1時間やるよりも、そこだけでいいから丁寧に10分、15分、を継続した方が絶対にいいと思っています。

高学年になり、なかなか丸をもらえなくなった時に、「丸をもらえないのは、できていないからじゃない、時間がかかるだけだよ」と話します。音楽は中身が大事なので、早く丸がもらえるのがよいのではなく、長くかかっても、少しずつ丁寧にやっていった方が、最終的によい音楽ができるということを、一緒に納得して練習に取り組むようにしています。

教室内掲示で自信と憧れを育む

生徒さんたちの意欲をかき立てる工夫も必要です。その一つとして、コンクールの活躍やグレードの合格、ステップの継続表彰、初めてステップに参加したことなどを、本人の了承の上で教室の大きなホワイトボードに写真入りで掲示して、応援の気持ちを発信しています。継続表彰もとてもいい制度で、コンクールが苦手な子でも、継続して参加することで同じように表彰や掲示をしてもらえる、素晴らしいことなんだということが伝わります。

コンクールやグレードのがんばりを掲示

生徒さんのがんばりを掲示することで、本人の自信や励みにもなるし、それを見た他の子や年下の子たちも、キラキラした目で写真を見ながら、「私もやってみたい」「今度はこれに挑戦してみたい」「コンクールで全国大会に行ってみたい」「ピアノがうまくなってこんなかっこいいお兄さん・お姉さんになりたい」と、具体的なイメージとともにワクワクした気持ちで目標を持つきっかけになっていると思います。

継続表彰は回数を記録しています
初ステップ参加も応援!
「松原がんばる市民応援事業」での市長表彰を励みに

もう一つ継続している取り組みは、地元・大阪府松原市の「松原がんばる市民応援事業」への申請です。これは、スポーツ・芸術・文化等の分野で、全国規模の競技会やコンクールに大阪府の代表として選考され出場した個人や団体に対して、松原市長から激励と応援金の交付をいただける制度で、毎年審査の上、文化の日に松原市長からの表彰式が行われます。

文化の日の表彰式の様子

初めて申請したのは2013年、自分の息子が日本バッハコンクールで全国大会出場を決めた時でしたが、まだ当時はスポーツ関係の申請が多く通り、ピアノコンクールでの申請は通りませんでした。小学校低学年だった息子はそれがとてもショックで、「また必ず全国大会出場を決めて、次は必ず認めてもらう!」と意気込み、娘とともに第5回日本バッハコンクールで全国大会へ出場して申請したところ、子どもたちの気持ちが伝わったのか、申請が通りました。

やはり子どもにとって、表敬訪問で市長さんにお会いし、立派な市長室で対談して直接応援金をいただき、そして文化の日に表彰式に出席するのは、刺激のある素晴しい経験で、人生が変わる思いだったようです。初めての表敬訪問の時に市長さんから「毎年頑張ってコンクールの報告に来て欲しい」とお言葉をいただき、低学年だった息子は「市長さんとの約束を守る」と、それを糧に毎年がんばってコンクールに挑戦し続け、以来、高校3年生の今でも毎年継続して報告に行くことができています。

澤井宏文松原市長と

そうしたきっかけから、2014年の初申請から現在まで毎年、教室の生徒さんたちが毎年コンクールで全国大会出場を決め、2015年は3名、2016年は3名、2017年は6名、2018年は7名、2019年は5名、2020年は6名、2021年は4名と市から表彰されています。市長さんも秘書広報課の方々もお教室や生徒さんたちのことを覚えてくださっていて、毎年激励の言葉をかけてくださいます。将来の目標に向かって頑張っている子どもたちや保護者にとって、このような経験や激励は、励みになるし、パワーと勇気をいただけるので、とても素晴らしい取り組みだと思っています。

私も、ただピアノの指導をするだけではなく、何か生徒さんたちのために刺激になることを考え、工夫しながら育てていきたいと思っています。保護者の方には、子どもの目標に向けて理解していただき、サポートしてくれるので感謝の念が堪えません。改めて、生徒さん一人一人の人生にとっての大事な時期を共に過ごし、成長を見守りながら指導できることに幸せを感じています。