ピティナ調査・研究

Vol.4 全国大会の配信を聴いて感想文を(新しい生活様式のレッスン)

新しい生活様式のレッスン
Vol.4 全国大会の配信を聴いて感想文を/魚住恵先生(指導会員/広島県広島市)
初めて全国大会を聴いた生徒の顔が別人のように

今年のコンペティションでは、コロナの影響で、出場することも、全国大会を聴きに上京することもできなかったので、中学生の生徒に対して、「G級全国大会のYoutube配信を聴いて感想文を書く」という課題を出しました。

その背景には、昨年のある経験がありました。ある高校生の生徒を連れて上京し、G級の全国大会を、朝から晩まで全員聴かせていただいたのです。中高生の時期には、「将来こうなっていたい」という姿を、自分の中で描きながら学ぶことがとても大切だと思っていますが、数年後の目指すべき姿や大変さについて、口でいくらお話するよりも、お子さんが自分で実際に聴いて実感するのが一番だと考えました。

大都市と違って地方では、どうしても限られた世界しか分からないもので、ピティナの地区本選までは残っていても、全国大会に進出できないと全国のレベルを実感することは、誰にでも難しいことです。本人が演奏しないコンクールの会場に広島から連れていく事は私にとって一大決心でしたが、保護者の方のご理解を頂けて実現することができました。ホールで全員の演奏を聴いている彼女の横顔は、既に別人のように変わっていました。広島へ帰った後、その子の取り組み方は激変しました。本人自らの目標設定のレベルが変わり、今も良い影響が続いていることをひしひしと感じています。何より私自身の指導方法も変わりました。

視聴だけでなく、具体的に文章を書かせる

今年はコロナのために上京は控えざるを得ませんでしたが、YouTubeで配信されるという知らせを聞き、「まずは自宅にこもっていても出来ることから始めよう」と思い、中学生の生徒にはYoutube配信でピティナのG級の全国大会を聴いて感想文を書くよう、課題を出しました。

視聴の宿題だけでなく、具体的に文章を書かせることにしたのには、私自身の経験上、演奏家の立場から論文などを書くことを通じて、演奏にもよい影響がもたらされたことを実感してきたからです。「楽譜を読んで演奏する」→「先行研究を基に楽譜を分析して言葉に置き換える、文章化する、新たな気付きを得る」→「演奏する時の気付きが変わる」→「さらに先行研究には無い視点で文章化できる」→「もっと演奏にも活用できる」…というように、途中で「言葉に置き換える」作業が、演奏に重要な視点をもたらしてくれました。

生徒の「今、見えているもの」「気になるポイント」が分かる

生徒たちには、配信を聴いた感想を、思うように書くように伝えました。自由に書かせることで、彼女たちがどのように聴いて、どのように書くのかに、それぞれの姿がより映し出されて今後の指導にも活かせると考え、こちらからは敢えて細かい条件はつけませんでした。

演奏者について一人ずつまとめて書いて来た生徒もいれば、一曲ずつそれぞれに対して感想を書いて来た生徒もいました。今、その子に見えていること、聴こえていること、あるいは気になっているポイントも分かり、とても指導の参考になりました。

生徒の感想文より

抜粋し、ある程度編集してありますが、下記のような感想が見られました。

  • 「手の運びがしなやかで、1つ1つの音が綺麗に透きとおっている」
  • 「トリルなど、速いパッセージがとても綺麗」
  • 「深みのある音色で、その中で様々な変化が感じとれる演奏だった」
  • 「呼吸しながら弾いている」
  • 「演奏している姿勢が良く、手首、指の使い方がなめらか」
  • 「表現力がすごくて世界観が伝わってきた」
  • 「賞には入らなかったけど、この方の演奏は好き」
  • 「普段のレッスンで先生から言われていたベートーヴェンの演奏に必要なことが良くわかった」
  • 「私の感じ方とちがう。私ならこういうふうに表現するだろう。私もこの曲が弾けるようになりたい」
心の中に芽生えた漠然とした感じから、殻を破る

感想文を読んでみると、普段、私に面と向かってはあまりハッキリと言えない子たちでも、沢山の気付き、感想、これから弾きたい曲などを正直に書いてくれたことが分かりました。心の中に芽生えた漠然とした感じで終わらせるのではなく、もう一息、殻を破らせることに成功したと思います。もちろん、まだまだ勉強不足のところもハッキリしました。

その後の練習に対する姿勢にも以前よりも上達が見られますが、何より演奏が能動的になってきていることを感じます。

こうした、「心の中に芽生えた漠然とした感じを、自分の言葉にする」取り組みを、今後も続けていきたいと思っています。もちろん、コロナが落ち着いたら本当に会場に足を運びましょう、とお伝えしていますので、将来は、実際に肌で感じたことを書かせてあげたいと思います。