ピティナ調査・研究

作文を通じて音楽を考える時間に(わたしのKeep on Music 第16回)

わたしの Keep on Music
第16回 作文を通じて音楽を考える時間に
岡田一美先生(正会員/かつらぎステーション代表/奈良県葛城市)
作文からベートーヴェンを学ぶ

今回の休校期間に、生徒たちにどう過ごして欲しいかを考え、全員に作文の課題を与えました。

今年はベートーヴェンイヤーなので、本来なら全国中のあちらこちらでベートーヴェンをたくさん聴くことができるはずなのに、残念ながらコンサートを聴くことはできません。そこで3月の課題として、ベートーヴェンの伝記などを読んで次の3つの作文を書こうと提案しました。

  1. ベートーヴェンってどんな人?ベートーヴェンの人生について
  2. ベートーヴェンの時代について
    (自分の身の周りと比べ、何が同じで何が違うか?またどんな作曲家や芸術家がいたのか?など)
  3. ベートーヴェンが未来に残した遺産について

約束は、ベートーヴェンが私たちにどんなことを教えてくれたか、自分の言葉で書くことです。小学生から高校生まで年齢こそ様々ですが、それぞれに自分の言葉でしっかりと書いてくれて、その純粋な想いにとても感動しました。また親御さんたちからは、一人の作曲家について色々な側面から勉強でき、その人物を知ることだけではなく、歴史の勉強や国語の勉強もでき、とてもよかったです!と喜んで頂きました。

不安な様子を見せる子どもたちには、「こんな時だからこそ萎縮せず、ピアノを弾くときは、のびのびと体操するように、心から一生懸命歌い、思いっきり弾くのよ!」と伝えました。

自分にとってなぜ音楽が必要なのかを考える

そして、ゴールデンウィーク明けを目指して次の課題を与えました。今回は、「人間にとってなぜ音楽は必要なのか?」という音楽の本質を探る作文でした。

音楽は、水や食べ物とは違い、なくても人は生きていけるけれど、バッハよりもっと以前から現代まで何百年以上もの間、ずっと継承されているということは、きっと人間にとって音楽はなくてはならないものだからでしょう?「なぜ人間にとって音楽が必要なのか?」「なぜあなたは、ピアノを続けているの?」そのことについて作文を書こう!ただし、音楽の起源や歴史について調べて、自分の考えを書いてね、と。

すると続々と素晴らしい作文が返ってきました。

生徒たちは自らを客観的に考え、言葉にすることで音楽する意味を見出し、自発的になって来ていると感じます。ただ作文を書かせることだけでなく、演奏も一緒に実践したことで、より鮮明に音楽の本質が見えてきたように思います。今まで「やらなければならない」と思ってピアノを続けて来た子供たちが、「やりたい」と思うようになったように感じます。

音楽で繋がった彼らに励まされ、私の心はいつも元気で充実しています。

生徒さんの作文より

生徒さんたちの素晴らしい作文の一部を紹介します。

私はベートーヴェンが残してくれた名言の中から好きなものをしょうかいします。一つ目は、「人間は、まじめに生きている限り必ず不幸や苦しみが降りかかってくるものである。しかし、それを自分の運命として受け止め辛抱し、さらに積極的に力強くその運命と戦えば、いつかは必ず勝利するものである。」なぜこの名言を選んだかというと、もし自分に不幸や苦しみが降りかかってもがまんできるようになりたいと思ったからです。・・・(略)私が将来どんな大人になっているか分からないけど、ベートーヴェンのように何事もおそれないような強い人になりたいです。(小5「ベートーヴェンが未来に残した遺産」より抜粋)

ぼくは、ベートーヴェンの人生について調べたことにより、ベートーヴェンに対する思いが変わりました。・・・(略)ぼくは、ベートーヴェンは、耳が悪い作曲家というだけの思いでしたが、よく調べるとベートーヴェンは小さいころから苦労ばかりだったため、音楽は生きる喜びや情熱を与えてくれるものばかりで、耳が聞こえなくなっても作曲し続けるベートーヴェンは、強い精神の持ち主なので、自分もそうなりたいです。(中1「ベートーヴェンの人生」より抜粋)

作曲家がその曲を作ったとき当時の時代背景、つまり起こっていたことや人生でどのような場面に対面してその曲を書くきっかけとなったのか、それぞれ意味があるはずです。ロボットやAIが自動で楽曲を作ったとなると、人間ならではの失敗や才能の限界が省かれた完璧な曲になるでしょう。しかし、その曲の奥にある背景と作曲者の気持ちなどが読み取れなくなってしまうことがデメリットです。・・・(小6「ベートーヴェンが生きた時代」より抜粋)

こんなコロナウィルスでたいへんなときなのに、わたしはピアノをつづけています。いのちにかかわらないのになぜなのでしょうか?すこしだけかんがえました。
ピアノをひいていると、きもちがはれてきて、だんだんたのしくなってくる、というのがまずはじめにかんがえたことです。それはたとえば、だれかにプレゼントをもらったときのような、うれしいきもちになってくる。だからわたしにとっておんがくは、たいせつです。(小2「なぜおんがくがひつようなのか?」より抜粋)

ママにふようふきゅうのいみをおしえてもらいました。大へんなときだし、しかたないのかもだけど、いそぎでぜったいにひつようなことじゃないって、なんか少しかなしい気もちになりました。だってピアニストの人たちその日のためにすごくたくさん練しゅうして、わくわくの気もちだっと思ったからです。早くコロナがおわってリサイタルをききに行きたいと思いました。ピアノの音どんなときも大すきです。
昔からずっと音楽がなくならないのは、ピアノや楽きをえんそうして人にきいてもらうことが大すきな人がいて、そんな音楽を聞いてたのしい気もちになったり元気になれる人がいるから何百年も音楽がなくなることがなく、これからもずっとあると思います。(小2「昔からどんなときにも音楽がある」より抜粋)

そもそも音楽は、なんなのかを考えてみました。私が思う音楽は、ふつうの音ではなく、心のこもった音のことです。ふつうの音ならだれでも出せるけれど、音楽の中の音は、だれでも出せるわけではないと思います。
私にとって音楽は、宝物のようなものです。なぜなら私はいつも悲しい時や心がおちつかない時、ピアノをひくと心がおちつくからです。ピアノをひいている時は、うれしい気持ちになります。そのつぎに、今、音楽がなかったら?と考えてみました。もし音楽がなかったら、作曲家も楽ふも音楽のじゅぎょうもなくなってしまいます。歌やオペラもなくなります。
だったら、今、私はピアノもならっていません。私は今ピアノを習っているからこそ、今の自分になれたから、音楽があってよかったと思います。(小4「私にとって音楽は、何?」より抜粋)

わたしがなぜずっとピアノを続けているかと言うと、楽しいし、ピアノが好きだからです。そして今は、コロナウィルスで世界のいろいろな国の人々が外に出れないけれど、この前見たニュースでは、スペインで一人がベランダに出て演奏をしたら、みんながベランダに出て楽しそうに演奏をしているのを見て、音楽はしずんだ人の心を楽しくうれしい気持ちにしてくれるものだと思いました。なので、私はやっぱり音楽は大切だなと思いました。(小6「音楽について」より抜粋

私達が演奏しているクラシック音楽は、ヨーロッパを起源とした西洋音楽です。6世紀頃に誕生したと考えられています。なぜ音楽は、人間にとって「絶対に必要なもの」ではないのに、こんなに発展できたのでしょうか。私は、人間にとって音楽は「ないと生きていけないもの」ではないけれど、「必要なもの」であると考えています。
音楽は、聴くと元気をもらえたり、応援してもらってがんばろうという気持ちになれたりします。それは、演奏している人の心がこもっているからだと思います。人間は、音楽を奏でたり聴いたりすることで支え合っているのだと思います。人間は支え合うことにすばらしいと感じたので音楽は発展できたと考えました。・・・(略)私は、音楽を演奏する人と聴く人が、お互いに幸せになれるのはすごいことだと思います。自分の演奏で人を幸せにできるようにもっとがんばろうと思います。(小6「音楽」より抜粋)

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